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ガラちゃんの名案
「ああ、お腹いっぱい!おいしかったあ!」
みゆは大満足で、ベッドの縁にチョコンと腰かけた。
昼食を終えてアベルとドニは用意された部屋へ、みゆは最初の寝室に戻った。
「ねぇ、ガラちゃん。お昼ごはんの時もずっと黙っていたけど、どうしたの?」
みゆは長い杖をベッドに立てかけ、両手で頭にのせたティアラをそっとひざに置いた。
「ガラちゃんは何も食べられないもん。食事中は退屈でちっとも楽しくないんだもん」
ガラちゃんはみゆのひざの上で、ブツブツと文句を言い出した。
「それにみんなが怪しいアベルを誉めるんだもん!ガラちゃんは全然おもしろくなかったよ!」
宝石の中でプリプリ怒っているガラちゃんに、みゆはハッとなった。
「ごめん、そうだったね。ガラちゃんはごはんが食べられないのに、私たちだけ見せびらかすみたいに食べて……。今度からはガラちゃんも食事中に何か楽しめるように工夫してみるね」
みゆはそう言いながら、ガラちゃんの入った宝石をそっとなでた。
「ううん、別にいいよ。前の女王様の時はもっとひどかったもん。フォークに刺したお肉やお魚をわざとガラちゃんの目の前に持ってきて、『こんなおいしい物を食べられないお前は世界一不幸だな』って、家来たちとゲラゲラ笑っていたよ」
「なにそれ!?まるで意地悪な子どもみたい!大人として最悪だよ!!」
「そうよ、最悪最悪!!」
みゆとガラちゃんが前の女王にカンカンに怒っていると、ドアがノックされた。
「女王陛下、お昼寝のお時間でございます」
「あ、ノエルだ。今の話は内緒よ、みゆ」
「そうだったね。ノエルは前の女王を尊敬しているから、こんな話をしたらイヤな気持ちになるかもね」
みゆはガラちゃんの忠告に素直に従うことにした。
「寝間着にお着替えくださいませ」
ノエルは寝室に侍女3人と入ってきた。
侍女たちがみゆを着替えさせている間、ノエルは隣の控えの間で待機した。
ガラティアラはベッドのそばのサイドテーブルにうやうやしく置かれた。
だが長く伸びた杖はどこに置こうかと、侍女の1人がキョロキョロして困っている。
「あ、その長さじゃ不便だね。元の長さに戻れ、巨人の杖!」
シュルルン……!
「きゃあ!?さ、さすが新女王陛下!ありがとうございます」
杖を両手に持った侍女は、急に杖が縮んだのでびっくりした。
震える両手で恐る恐る、巨人の杖をガラティアラの横に置く。
着替えが済むと彼女たちはみゆに深々とおじぎをして退室した。代わりにノエルが寝室に入ってくる。
「では、歯みがきをいたしますのでベッドに仰向けにお休みください」
なぜかノエルはフリル付きの真っ白なエプロン姿で、右手に大中小3本の歯ブラシ、左手にピンク色のコップを握りしめている。
「え?まさかノエルが私の歯を磨くの!?」
「さようでございます。侍従が女王様にひざ枕をして、1本1本ていねいに磨くのがこの国のしきたりでございます」
「いいよ、自分でするよ、そのくらい!洗面所はどこ?」
「向かって右側のドアでございますが、あっ!お待ちを!」
みゆはベッドから素早く立ち上がると、控えの間とは反対のドアに向かった。
その後を慌ててノエルも追いかける。
「うわっ!まぶしい!」
みゆが力任せにドアを開けると中は一面、鏡の部屋だった。
「洗面台の両側の収納棚に新品の歯ブラシをご用意しました。歯磨き粉もイチゴ、メロン、バナナ、桃と各種フルーツの香りを取りそろえました」
「何だか、かき氷のシロップみたい。普通のミントの香りでいいよ」
「さすが女王様!好みも大人でございますね!」
ノエルはみゆの後ろにぴったりくっついて、絶賛してくれた。
「ね、ねぇノエル?ちょっと尋ねたいんだけど」
「はい、何なりと」
みゆは歯ブラシに、ムニュっと歯磨き粉を押し出しながら質問してみた。
「まさかとは思うけど、トイレやお風呂にまでついて来ないよね?」
「ご心配には及びません。もちろん同行いたします」
何でそんなわかりきったことを聞くのだろうと、ノエルは不思議そうに答えた。
「ええ!?嫌だよ!そんなの恥ずかしいよ!!」
「しかし、女王様にご不便をおかけするなど言語道断。やはりここは侍従のわたくしがお世話をいたさなくては!」
「嫌だってば!」
「何だかみゆが怒ってる。ガラちゃんは加勢に行けないから退屈だよ」
みゆとノエルが洗面所のドアを開け放っしで言い争いをしていると、ガラちゃんはサイドテーブルの上で1人つぶやいていた。
「まあいいや。みゆなら1人でも勝てそうだし。それより問題はアデラールよ。何でうそつくの?やっぱり女王様が怖いから?うん?あれ?それなら!」
ガラちゃんは名案を思いついて、思わず歓声を上げた。
「女王様はもういないよって教えてあげればいいんだ!そしたらアデラールも安心して名乗ってくれる!なあんだ簡単だね!」
喜んだガラちゃんは早くみゆにも教えたくて、たまらない。
「今日のガラちゃんはさえてるね!みゆ、早く来ないかなあ。あ!来た来た!」
ガラちゃんが宝石の中から見つめていると、みゆが早足で洗面所から飛び出してきた。
「あのね、みゆ!いい話があるんだ!」
「ガラちゃん!止めないで!私もう寝る!」
「え?寝る?」
みゆはガラちゃんの話も聞かず、そのままベッドに飛び乗った。
「寝てもいいけど、その前にガラちゃんの話を聞いてよ」
「女王様!わたくしめの話をお聞きください!!」
ガラちゃんが振りしぼった声は、ノエルの大声にかき消されてしまった。
「イヤ!もう寝る!」
「そ、それでは寝付かれるまで子守歌を歌いますか?それとも絵本を読みながら添い寝しましょうか?」
「1人にして!部屋から出て行って!」
布団をかぶってプリプリ怒っているみゆに、お手上げになるノエル。
やむなく、みゆに向かって一礼すると、寝室を出て行った。
「みゆ……寝ちゃった。仕方ないなあ……。ここはガラちゃんが一肌脱がなくちゃね」
ガラちゃんはみゆが昼寝から目覚めるまで、辛抱強く待つことにした。
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