思い出の中の少年

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思い出の中の少年

みゆは5年前の夏休みも、おばあちゃんの家に遊びに来ていた。 その日も朝食をすませると、みゆはすぐさまおばあちゃんの家の近くの浜辺に、一人で遊びに行った。 おばあちゃんの家から、舗装されたなだらかな坂道を下る。 すると、しばらく歩くと舗装道路はなくなり、人一人がやっと歩けるくらいのせまい小道に入る。 松林に囲まれた昼間でも薄暗い道を抜けると、みゆの視界いっぱいに海が見えてきた。 「うわあっ!気持ちいい!」 みゆは砂浜目指して、トコトコと駆け出す。 砂浜は見渡す限り誰もいない。 海の向こうではヨットやゼットスキーを楽しむ大人の姿は見えるが、浜辺には大人は誰もいない。 「わあい!みゆ専用のプライベートビーチみたいだ!!」 みゆは大喜びで砂浜を駆け回る。 トコトコと、どこまでも駆け回り、小さな岩場にまで来た時、そこに誰かがしゃがみ込んでいることに気づいた。 「わあっ!びっくりした!こんな所に人がいた!!」 みゆの悲鳴に、しゃがみ込んでいた男の子も驚いた。 うつむいていた顔を上げ、驚いた表情でみゆを見上げた。 みゆはその男の子を見て、一瞬息を飲む。 その子は、泣いていた。 目にいっぱい涙を溜め、涙が一滴頬を伝って溢れた。 そしてみゆがなにより驚いたのは、その男の子の瞳が綺麗な緑色だったことだった。 その子の瞳は宝石のエメラルドみたいに透き通って見えた。 みゆはあまりに綺麗な瞳の色だったので、びっくりして見とれてしまった。 「キミは誰?」 男の子は急いで立ち上がると、慌てて自分の腕で目をゴシゴシこすって涙を拭いた。 「何で泣いているの?」 「泣いてなんかいないよ!それより君は誰?」 「うん、私は阿久津みゆ」 「あくつ?なんだかだね」 「違うよ!悪くないもん!みゆは悪人じゃないもん!なんでみんな、私の名前を聞くと、ひどいことばっかり言うの!?いい加減にしてよ!!」 みゆは名字のことでさんざん学校や塾で男子からからかわれていた。 だからこの男の子とは初対面だったにもかかわらず、無性に腹が立ったのだ。 「ごめん……。そんなつもりで言ったんじゃないんだ」 みゆのあまりの剣幕に驚いたのか、しばらく黙り込んでいた男の子はようやく口を開いてこう言った。 「かっこいいよ。なんだか強そうな感じがして。そうだよ、かっこいい!」 そう言うとみゆより背が高くて年上に見えた男の子は、ちょっとだけ恥ずかしそうな顔をして微笑んだ。
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