130人が本棚に入れています
本棚に追加
不意に、熱を孕んだ風が舞い上がった。
え、と言葉を失ったまま、固まる。
視線が絡み合って、心臓が跳ねる。
「ジョークじゃないからね?」
小さく首を傾げたレイが、青い目を細めながら続ける。
「たぶんマシロが思っている以上に、俺は本気だよ。マシロ以外、眼中にないし、これでも一途だから」
「……今まで付き合った人は?」
「いないよ」
――モテモテだろうに、なんでまた…
「だって初恋の人が目の前にいて、それをみすみす逃すかよ、普通」
「え?初恋…?」
一瞬、初めて出会った香港での宝石万博のことを思い出すが、レイは静かに笑った。
「マシロほんとうに覚えてないんだ」
「えっと、ごめん、なんのこと…」
「ここの堤防で、数十年前に会ってるんだよ、俺たち」
――……ここで?
堤防の向こう、コバルトブルーの淡い海が脳裏に焼き付く。
ふいにお母さんとの会話が脳内で蘇った――……
――……「あの時、茉白が迷子になって大変だったんだから」
――……「そうなの?」
――……「そうそう。それで慌てて探したら、びしょ濡れになってて」
――……「え?なんで?」
――……「なんかね、私もよく分からないんだけど、男の子と一緒に海に飛び込んだんだって。なんで?って聞いても、当時の茉白ってば『内緒!』って言うのよ」
――……「え〜、そんなことあったっけ?」
お母さんに教えてもらった私の迷子事件。
私の中に記憶はほぼなくて。
海に知らない男の子と飛び込むって、なんでまたそんなトンチンカンなことを小さい頃の私はやったのだろう。ってか、それお母さんの作り話なんじゃ、ってずっと思っていた。
でも、もし本当なのだとしたら――……
その時一緒に飛び込んだ「男の子」は、もしかして「レイ」だったってこと――……?
最初のコメントを投稿しよう!