七夕の空で。

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「いつもわたしがくると、地上の方々も天上の方々も嫌な顔をするの。  この間のスーパームーンと皆既月食のコラボレーションの時なんて特にひどくて、なじられて。責められて。  月や太陽さえも『疎ましい』という顔をする。   わたしはなんのために生きてるの?  消えてしまいたい……。  だから、風に、わたしを消してとお願いしたの。でも、断られちゃった」  女性は、とうとうわっと声を上げて泣き出した。 「皆、わたしが嫌いなの。  でも、1番わたしを嫌いなのは、わたし。  わたしを好きになれないわたし。  こんな自分、消えてしまいたい」  女性の身体はふるえていた。  だが、少年は笑っていた。 「なんだ、そんなこと。  気にしなくてもいいじゃないか」  へらへら明るく、一言で返した少年に、女性はムッとした。 「テキトウなこと言わないで」 「テキトウじゃないよ。  ぼくはきみを好きだから」  その言葉を聞いて呆然とした女性の手を、少年は握った。 「きみがいてくれるからぼくが生まれてこれるんだよ。  そして、いつもきみをそばでずっと見てきた。  つらくても、頑張っているのを知っているよ」  少年はにっこりとした。 「世界がきみを憎んでも、  きみ自身がきみを嫌いでも、  ぼくはきみを、好きだから。  いつもきみを、想っているから。  なんのために生きているか?   きみを好きなぼくのために生きればいい」  じりりりんと少年の胸でベルが鳴った。 「もう時間みたいだ。それではまた。  ここで、会おう」  少年は、さっと飛び降りた。風にのり、幾千万の雨粒となり、地上へ降り注いだ。  少年は女性にまた会える。粒が集まり大河となり、太陽に温められて天に昇ったその先で。
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