枯れ始めた

1/1
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ

枯れ始めた

「あれ? お母さん、シクラメンしおれきってる。」  寝坊した母が朝食を食べている間に、出勤前、あわただしくベランダに洗濯物を干しに出た彩弓(あゆみ)は、開けたガラス戸から母に声を掛けた。去年のクリスマスに、母が何かの会でもらってきたシクラメンだ。 「ああ、それね。花が終わったから。葉っぱもしおれたし、そのうち片付けるから。」 「ふうん。」  彩弓はしばらく鉢を眺めてから、洗濯物を干した。それからコップに水を汲んできて、シクラメンの鉢の受け皿に注いだ。花が終わったから、枯れ始めたからといって、水をもらえなくなるなんて可哀想だ。 「お母さん、これ、私がいいって言うまで捨てないでおいて。」  せめて完全に枯れるまでは、お水をあげよう。彩弓はぐったりしているシクラメンをなでた。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!