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かわいいベイビー
鉢の真ん中の土を、何かが押し上げていた。
彩弓はそっと土をよけてみた。
すると、芽のような物があった。
「え……。根っこ、生きてたの?!
お母さん、シクラメンまた生えてきた!」
「あらあ? シクラメンって一年草じゃあなかったの?」
母親も見に来た。
「ああ、本当ね。芽だわ、これは。
でも、シクラメンかしら?」
「育ててみる!」
彩弓は俄然、はりきった。
その夜、彩弓は夢を見た。
亡くなった婚約者、智の夢だ。
智は彩弓が世話し続けているシクラメンの鉢を片腕に抱えて、笑顔で言った。
「ピンクのシクラメンだったの、覚えてるかい?」
「………お母さんがもらったやつだったから、あんまり見てなかった。」
智はお見通しだったように、ふふっと笑った。
「綺麗なピンク色の花が咲くよ。
君にはじめてピンク色を見せるとしたら、僕はこの色みを選ぶね。」
そう言って、まだ葉も出ていない鉢の上で、魔法をかけるように片手を揺らした。
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