かわいいベイビー

1/1

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ

かわいいベイビー

 鉢の真ん中の土を、何かが押し上げていた。  彩弓はそっと土をよけてみた。  すると、芽のような物があった。 「え……。根っこ、生きてたの?!  お母さん、シクラメンまた生えてきた!」 「あらあ? シクラメンって一年草じゃあなかったの?」  母親も見に来た。 「ああ、本当ね。芽だわ、これは。  でも、シクラメンかしら?」 「育ててみる!」  彩弓は俄然、はりきった。  その夜、彩弓は夢を見た。  亡くなった婚約者、(とも)の夢だ。  智は彩弓が世話し続けているシクラメンの鉢を片腕に抱えて、笑顔で言った。 「ピンクのシクラメンだったの、覚えてるかい?」 「………お母さんがもらったやつだったから、あんまり見てなかった。」  智はお見通しだったように、ふふっと笑った。 「綺麗なピンク色の花が咲くよ。  君にはじめてピンク色を見せるとしたら、僕はこの色みを選ぶね。」  そう言って、まだ葉も出ていない鉢の上で、魔法をかけるように片手を揺らした。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加