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サンタクロースより早く
そして12月に入った頃、シクラメンのつぼみはかなりふくらんでいた。
澄んだ濃いピンク色がほんの少しのぞいている。
咲いたらどんな色になるだろう?
彩弓は、雪の日や北風の日には鉢を部屋のなかに入れて守った。
いくつも付いたつぼみは日に日にほころび、クリスマスを待たずに満開になった。
「綺麗ねえ。」
いつの間にか一緒にシクラメンの様子をみるようになっていた母が言った。
彩弓は言った。
「去年ももっとよく見とけばよかった。」
すると、母は気づいたように言った。
「そういえば、去年とはちょっと色が違うわね。」
「え?」
「こんなに深い色合いじゃあなかったわ。」
「本当に?!」
「縁の白がもっと多かったし。」
彩弓は春に見た智の夢をあらためて思い出した。
─── 君に選ぶなら……。
彩弓は黙ってシクラメンの色を見つめた。
母は彩弓の隣で世間話のように言った。
「シクラメンって、2年目は咲かせるのが難しいんですって。すごいわね、彩弓。」
「………そんなことないよ。」
智が咲かせてくれたんだよ。
彩弓は空を見上げた。
ありがとう。
こんな綺麗なピンク色は、はじめて見たわ。
彩弓と智はまだ続いている。
婚姻届はもう出せない。
でも、心は結婚している。
結婚の形も様々な今だから、この世とあの世の別居婚だって、あってもいいじゃないか。
彩弓は再びシクラメンの花に目を落として、
「綺麗。」
と微笑んだ。
智の気配が一瞬ふっと隣に現れて、消えた。
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