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 この物語の主人公有紗(ありさ)は今、喫茶店で待ち合わせた相手が到着するまで、スマホに表示した一枚の写真を凝視していた。写真には若い男女が写っている。男性の逞しい腕は女性の背中をやさしく支え。身を任せる彼女の細くしなやかな腕は、彼の背中で絡むように交差して、彼の頭部を鷲掴みしている。そしてふたりはからだを密着させ、唇を激しく求め合っていた。  有紗の瞳には、憎悪の影が差し、眉間には苦悩が刻まれていた。  写真の二人は、待ち合わせの相手、川嵜(かわさき)(そう)の親友(まもる)と創の恋人椎名(しいな)である。  有紗にとって創は、ずっと憧れていた雲の上の存在だった。子供の頃から親の期待に応え、がむしゃらに勉強してきた有紗にとって、創は遠くから眺めることしかできない眩しい太陽のような存在であり、絶対的幸せの象徴だった。 「彼が穢されるなんて許せない!」
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