幻のプロポーズ

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 朝5時。  スマホのアラームがなるのと同時に受ける、涎の洗礼。 「うーん・・・モカ・・・、わかった。起きる、起きるからぁ~」  愛犬のモカが私の顔を舐めまわすという最上級の愛情表現で起こされるのは、嬉しいような、嬉しくないような・・・・。  起きた瞬間から、私の顔面はモカの涎まみれだ。  だから、そのまま洗面所に向かい顔を洗うのが私の朝のルーティン。 『ワン ワン』(はやくお散歩、行こうよ!)  そんな期待値100%のモカに「はいはい、ちょっと待ってねー」と返事をしながら着替える。カーテンを開けると、今日も気持ちの良い秋晴れだ。  季節は春と秋が一番好きだ。  暑くもなく、寒くもなく、この時期のモカとの散歩がもっとも心地いい。 「よし、モカ。散歩に行こう!」 『ワン!』  ハーネスを付けるとぴょんぴょんと飛び跳ねて全身で嬉しいを表現するモカは、毎日のことながらどうしようもなく愛くるしい。  モカは、アメリカン・コッカー・スパニエルの女の子だ。全身の毛が少しカールしていて毛色はバフ。いわゆるクリーム色だ。  散歩のメインは近所の大きな公園。  昼間は沢山の人が訪れてバーベキューなんかもできるなかなか人気の公園だ。とはいえ、早朝にこの公園にいるのは、ジョギングやウォーキング、そして私と同じ愛犬の散歩に来ている人たち。 「ん~、モカ、気持ちがいいねぇ~」  そう言って大きく伸びをした私の顔をモカが見上げる。  少したれ目のモカの目が「そうだね♪」って言っている。  早朝にこうしてモカと散歩するようになったのは1か月まえから。  それまでは仕事から帰って夜にしていのだが・・・。  その理由のひとつが・・・。 「あ、モカ・・・見て。あの人だよ!」  小声で言うと、モカは不思議そうに私を見上げる。  最初は同じコッカーを連れているという理由で彼に目が留まった。  本当にそれだけだった。けど、どういうわけかいつの頃から、そのコッカーを連れている彼の方が気になって仕方なくなった。
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