幻のプロポーズ

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 とりわけイケメンってわけじゃないけど、すらりと高い身長、サラサラの髪、笑うとまるでモカのように垂れる目尻や、頬にできる笑いじわ。  一度も言葉を交わしたことはないけれど、気が付けば、彼の笑顔がチラついて、四六時中彼の事を考える様になっていた。  まさに、一目ぼれである。 「ねぇーモカァ~、話しかけたら・・・不審者と思われるかなぁ・・・いや、犬繋がりってことならいけるのか?」 しゃがみ込みモカに訴えかけるように言うと、モカが『どうしたの?』というように首を傾げてペロっと私の鼻を舐めた。 「うわっ・・・・」  モカの愛情表現は嬉しいけど・・・。  苦笑いをしていると、頭上から声がかけられた。 「あの、可愛いですね」 「え?」  しゃがんだまま見上げると、そこには彼がいた。 「えっ!うそっ!」 慌てて立ち上がって「あの・・・どうも・・・・」って、言ったと思う。 可愛い――そう言った彼の言葉が頭の中でグルグル回って、もうどうしたらいいかわからない。やばい・・・声もかっこいいっ。 「名前、聞いてもいいですか?」 「はいっ!芽愛です!」 「芽愛ちゃんかぁ!可愛い名前ですね!」 まっまた、可愛いっていわれたーーーーーーっ!!!! これはーっ!もしかしたら、もしかするかもしれないっ! モカっ、どうしよう!  助けを求める様にモカをみると、なんと彼の愛犬とじゃれている。  モカ・・・もうそんなに仲良く!羨ましすぎる! 「おー、レオン、お前もすみに置けないなぁ」  モカと彼の愛犬が戯れる様子を見て、優しく微笑む彼。  至近距離でのこの笑顔。破壊力抜群!もう死ねます!  私はもう、どうしていいかわからなくなって、「すみません、私この後仕事なので!」言い捨てる様に言うと、モカを抱き上げ逃げる様に走ってきてしまった。  公園を出た辺りでモカをおろすと、『楽しかったのに―』と私を責めるようなモカの視線に「ごめん」と呟く。  だって仕方ないよ。  このひと月、寝ても覚めても憧れ続けたあの笑顔を、あんな至近距離で見せつけられたら、私の心臓は爆発してしまう。 「けどさ・・・モカ・・・」  クゥーンとモカが私を見上げる。 「彼、可愛いって言ったよね?最初も・・・名前を言った時も・・・・」  思い出したらまた、心臓がバクバク言って、その振動が再び私を舞い上がらせる。 「やばーい!モカ!どうしよう!可愛いって言われちゃったよー」 『ワン』
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