幻のプロポーズ

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◇◆◇  翌日、スマホが鳴るよりも、モカが私の顔面を涎まみれにするよりも早く、私は起きた。  そう、早くモカと一緒に散歩に行きたかったからだ。  今日は、私から挨拶しよう!そんな小さな決意を胸に抱いて! 「よし!準備完了!モカ散歩にいくよ!」 『ワン』  今日も気持ちの良い秋晴れ!私の心は更に快晴! 「おはよう・・・おはようございます・・・おはようです・・・・」  練習のつもりで呟く言葉はどれもピンとこない。日本語ってなんか難しい・・・。  “おはようございます”ってどんな風に言ったら可愛く見えるのだろうか。  今だけ、今だけでいい。彼の前では一番可愛い私でいたんだ。 「ねぇ、モカァ~、どうしたらいい?」  泣きつく私を『もう好きにしてよ』と言わんばかりにモカはチラリと見ただけで、すぐさま前を向いて歩き出す。 「冷たいなぁ・・・」  そう言った時だ。 『ワン』  急に後ろ方向へとリードを引っ張られて、足がもつれた。  だめだ・・・完全にバランス壊した!転ぶ!  そう思ったのに、覚悟したはずの地面への衝撃は一向に訪れなかった。  その代わり、私は誰かの腕にしっかりと、抱き留められていた。 「危ないとこ・・・でしたね、大丈夫?」 「え?」  恐る恐る見上げた視線の先には、またしても超至近距離の彼がいた。 「ぎゃーっ」  思わず叫んで飛びのく様に彼から離れた。けど、すぐに助けてもらったことを思いだして、頭を下げる。 「あっありがとうございますっ!」 「いやいや、こちらこそ、不躾に抱き留めてしまってごめんね」 「いえ・・・・それは全然っ、大丈夫・・・・です」  尻すぼみになる私の言葉を聞いて彼は優しく笑った。
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