幻のプロポーズ

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◇◆◇  翌朝、天気予報で言っていた通り、清々しい秋晴れが戻ってきた。 「よし!モカ行くよ!」  例によってアラームよりも先に起きた私は、既に準備万端。  彼に返事をするんだ!と・・・・・・、意気込んで公園に来たというのに―――。  彼には会えなかった。  今日は日曜日。  仕事は休み、つまり時間を気にせず散歩を堪能できる日だ。  なのに・・・彼がいないなんて、あぁ、神様は恋するふたりの邪魔をするのが趣味なのだろうか。  既にいつもより30分も多く公園をフラフラしているにも関わらず、未だ彼に会うことは叶わずにいる。 「今日は来てないのかなぁ・・・・」  疲れてベンチにへたり込むと、傍らにモカも座って『クゥーン』と、私を見上げている。 「ごめん、心配かけちゃったね。けど・・・どうして会えないんだろうね。私の返事・・・欲しいんじゃないのかなぁ・・・。モカもレオン君に会いたかったよね」  モカはなんとも言えない顔で私を見上げている。 「もしかして・・・・、私にプロポーズしたこと後悔してる?・・・うぅっ」  自分で言ったことだったが、言葉にするとなかなかのダメージだ。  そうだよね・・・・勢いで言ったってこともあるし、本気じゃなかったのかもしれない。  それとも、私が毎回ダッシュで逃げ帰るから自信を無くしてしまったのだろうか。そうだとしたら、なんと罪作りなことをしてしまったんだろう。  あれは、貴方の事が嫌とかそう言うんじゃなくて、あまりに貴方が素敵だから私の心臓が限界値を超えレッドゾーンに突入しただけなのよぉ。  未練がましく公園を見渡すも、やっぱり彼はどこにもいない。 「モカ、帰ろうか・・・」  ゆっくり立ち上がって歩き出すも、足取りは重くモカがじれったそうにしている。  プロポーズの返事をしようと意気込んだ分、思った以上のダメージをくらってしまった。  そんな私をモカは時折私を見上げながらも、私に合わせてゆっくりと歩いてくれている。 「モカは本当に頭のいい子だね。もしかしたら私の心が今、超絶凹んでいるってこともわかっているのかな・・・・」  その日は、まるでナメクジのように過ごした。  何をするにも気力がわかなくて、日がな一日ゴロゴロしてすごした。  けれどもモカはそんな私が自分と遊んでくれるのかと勘違いしているようで、隣にくっついて昼寝したり、一方的にじゃれついてきたりなんだかとても楽しそうだった。
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