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幸福の配分
とある未来、とある科学者からとんでもない研究結果が発表された。
科学者によると、地球全体で幸福と感じられる量が決まっており、それを地球全体でシェアしているというのだ。
つまり、ある場所で、ある誰かが幸せだと感じているとき、その人の幸福量は一時的に増大している。
その代わり、同じ瞬間に、とある誰かは幸福量が減少し、不幸を感じているということだった。
当初この研究はあまりに突拍子もなく、全く注目されるべきものではないと考えられていたが、あるツイートにより、一挙に注目されることになった。
「幸福量が決まってるに納得。だから貧富の差は埋まらない。」
研究結果の科学的根拠はどうあれ、このツイートが皮切りとなり、主に発展途上国の若い世代を中心に、世界で貧富の差が縮まらない原因は、幸福量を先進国が独占しているからだ、という風潮が流れ始めた。
しばらくして、発展途上国の若者たちにより、先進国大使館へのデモ行進や、他国製品の不買運動か起こり始めた。
すると、各国の首脳陣の中には、国を上げて先進国を批判する者まで現れるようになった。
それでも、発展途上国による先進国批判が相次いだところで、世の中に大きな影響が起こることはなかった。
しかし、やがて先進国から、この状況にビジネスの匂いを嗅ぎ付ける者が現れ始めた。
最初は、幸福量を増やす生き方を説いたり、幸福量を増やすレシピの紹介といった啓発ものから始まり、やがて幸福量を集めるパワースポットを巡るツアー、幸福の貯まるデバイスやアクセサリーなどが発売され、発展途上国の路上販売を中心に急激に普及した。
それで発展途上国の人々の幸福量が増えていったかどうかは定かではなかったが、もし、万が一幸福量が増大するのなら、何もしないでいるだけでは、デバイス等を持たない自分たちが不幸になるかもしれない、という不安が先進国のに住む人々の間で少しずつ広まり始めた。
そん状況がしばらく続いたのち、先進国でもネット上を中心に、幸福量の存在を信じる人々が現れ始め、幸福量を増やすと言われるデバイスを買い求める人が増えてくると、発展途上国に比べてより高性能で高額なアイテムが発売されるようになった。
かくして幸福量は今や世界中のトレンドとなり、人々は、いかに幸福量を増やすかに執着し、見えない幸福量という数値を増やすことか出来る可能性に飛び付くようになった。
それからしばらくして、世界の各地で幸福量を巡る事件などが起きるようになってきた。
最初は幸福量を謳い文句に行われる詐欺や、幸福量を増やすアイテムなどを巡る窃盗などの類いだったが、次第に殺人や小さな紛争に変わり、生命が奪われる事態になっていった。
これらの小さな事件がきっかけとなり、やがて世界中で、幸福量の覇権を争う紛争状態に突入した。
ある国は幸福量を自国民で占有すると宣言し、周辺国を無差別に攻撃し始めた。
避難されるべきこの行き過ぎた行動は、逆に各国の戦争参加を加速させた。
世界は、幸福量は奪わなければ奪われる、という図式になっていた。
こうして戦争状態は何年も待たずに世界中に拡がり、多くの犠牲者を出しながら、人類は確実にその数を減らしていった。
生き残った人々の幸福量は増えていくはずだったが、人類は唐突に終わりを迎える。
ある国のトップが、自分一人で幸福量を一人占めしたいと考え、世界中に核爆弾を発射したのだった。
人類はその姿を地球上から消すことになった。
一人残ったその人間は、幸福量を一人占め出来るはずだったが、何か分からない病気で誰の助けも得られず一人苦しんで死んでいった。
そして。
地球は幸福で満たされることになった。
地球全体に幸福が行き渡り、大地は時間をかけてゆっくりと再生し、やがて生命が誕生した。
遠い未来に、幸福量を巡る争いが起きるかもしれないが、今はまだ、地球は幸福で満ち溢れている。
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