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微笑むと同時に小首を傾げるその仕草が艶めかしい。緩くまとめたピンク色のロングヘア―もまとめているフューシャピンクのリボンも、鍋先生の頭と一緒にふわりと揺れる。
「は、初めまして…! あ、あの、新しく鍋先生の担当となりました山田と申します…あっ! め、名刺…!」
斜め掛けしているショルダーの中を探って、なんとか名刺入れを見つけ出す。
「す、すみません…! ええと、あ、改めまして、鍋先生の担当と相成りました、や、山田と申し候…!」
噛み噛みだし時代劇だしっ!
「私のことは『過斗子』でいいわ。あなた、下の名前は?」
動揺しまくっている私に構わず、鍋先生が問いかけてきた。
「え? えっと、『くるみ』と申します…!」
「よろしくね、くるみん」
『くるみん』?! いきなりあだ名?!
「よ、よろしくお願いします、過斗子先生…!」
憧れの過斗子先生の担当になれた上にあだ名まで付けてもらうとか、もう最高かよ。
「で、くるみんは何歳?」
「27歳です」
「独身?」
「はい」
「恋人は?」
「いません」
唐突に始まった質問タイムに動揺を隠せない。これは何の面接だろうか?
過斗子先生は満足そうに頷くと、頭の中に『?』マークが飛び交う私に衝撃の一言を告げた。
「じゃあ、さっそく婚活パーティー行くわよ」
え? えええ?!
「あ、あの! か、過斗子先生?! 今からですか?! え、私も一緒に?!」
「当然じゃない。アラサーで独身なんでしょ?
私もアラサーなのよ。三十四だけどね。
私、どうしてもアラサーのうちに結婚したいの。
来年にはアラフォーよ? アラフォー独身なんて負け犬じゃない! あなたも今から婚活しないと、あっという間に負け犬よ。わかったら、さっさと行きましょ!」
ばしりと言い切って、過斗子先生はふわふわドレスの上にふわふわのボレロを羽織り、シャネルのロゴが眩しいピンクのバッグを肩に掛け、颯爽と外へと飛び出した。
あまりのことに頭が追い付かないけど、とりあえず過斗子先生を追いかけ外に出る。
専用エレベーターで一階に降りると、コンシェルジュさんが過斗子先生に一礼する。
「鍋様、お車が到着しております」
「ありがと」
ドレスの裾をなびかせエントランスを抜け、入口で待っていた黒塗りのでっかいハイヤーに乗り込む過斗子先生。
「ほら、くるみん早く乗って!」
「はいぃ!」
車のでかさにビビっている私に過斗子先生が呼びかける。
急いで過斗子先生の隣に乗ると、ハイヤーは私の人生初となる婚活パーティーに向かって静かに走り出した。
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