『鍋過斗子の婚活日記』

2/5
前へ
/5ページ
次へ
微笑むと同時に小首を傾げるその仕草が艶めかしい。緩くまとめたピンク色のロングヘア―もまとめているフューシャピンクのリボンも、鍋先生の頭と一緒にふわりと揺れる。 「は、初めまして…! あ、あの、新しく鍋先生の担当となりました山田と申します…あっ! め、名刺…!」 斜め掛けしているショルダーの中を探って、なんとか名刺入れを見つけ出す。 「す、すみません…! ええと、あ、改めまして、鍋先生の担当と相成りました、や、山田と申し(そうろう)…!」 噛み噛みだし時代劇だしっ! 「私のことは『過斗子(かとこ)』でいいわ。あなた、下の名前は?」 動揺しまくっている私に構わず、鍋先生が問いかけてきた。 「え? えっと、『くるみ』と申します…!」 「よろしくね、くるみん」 『くるみん』?! いきなりあだ名?! 「よ、よろしくお願いします、過斗子(かとこ)先生…!」 憧れの過斗子(かとこ)先生の担当になれた上にあだ名まで付けてもらうとか、もう最高かよ。 「で、くるみんは何歳?」 「27歳です」 「独身?」 「はい」 「恋人は?」 「いません」 唐突に始まった質問タイムに動揺を隠せない。これは何の面接だろうか? 過斗子(かとこ)先生は満足そうに頷くと、頭の中に『?』マークが飛び交う私に衝撃の一言を告げた。 「じゃあ、さっそく婚活パーティー行くわよ」 え? えええ?! 「あ、あの! か、過斗子(かとこ)先生?! 今からですか?! え、私も一緒に?!」 「当然じゃない。アラサーで独身なんでしょ? 私もアラサーなのよ。三十四だけどね。 私、どうしてもアラサーのうちに結婚したいの。 来年にはアラフォーよ? アラフォー独身なんて負け犬じゃない! あなたも今から婚活しないと、あっという間に負け犬よ。わかったら、さっさと行きましょ!」 ばしりと言い切って、過斗子(かとこ)先生はふわふわドレスの上にふわふわのボレロを羽織り、シャネルのロゴが眩しいピンクのバッグを肩に掛け、颯爽と外へと飛び出した。 あまりのことに頭が追い付かないけど、とりあえず過斗子(かとこ)先生を追いかけ外に出る。 専用エレベーターで一階に降りると、コンシェルジュさんが過斗子(かとこ)先生に一礼する。 「(なべ)様、お車が到着しております」 「ありがと」 ドレスの裾をなびかせエントランスを抜け、入口で待っていた黒塗りのでっかいハイヤーに乗り込む過斗子(かとこ)先生。 「ほら、くるみん早く乗って!」 「はいぃ!」 車のでかさにビビっている私に過斗子(かとこ)先生が呼びかける。 急いで過斗子(かとこ)先生の隣に乗ると、ハイヤーは私の人生初となる婚活パーティーに向かって静かに走り出した。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加