第一章 阿笠森のうわさ

2/7

8人が本棚に入れています
本棚に追加
/89ページ
 二〇二〇年八月。本来なら、ぼくらの国でオリンピックが開催されていた夏。  ぼくは不思議な事件に巻きこまれた。  関西のとある県内にある阿笠(あがさ)町。ぼくは阿笠小学校に通う四年生。名前は灰崎(はいざき)アポロ。アポロは本名である。おとうさんが日本人。おかあさんがベルギー人。  おかあさん似のぼくは英語がしゃべられてずるいなあとか、女みたいな顔しているなあとか散々言われたが、全部が合っているわけではない。  まずぼくは英語が話せない。英語のテストも国語のテストと同じくらい。だいたい八十点くらいかな。百点はとったことがない。  女みたいな顔しているのは間違っていないと思う。ぼくとしてはあまり嬉しくない。  かっこいいとかイケメンとか言われるほうがよっぽど嬉しい。言いかたを変えると美少年。ぼくのおかあさんはぼくのことを可愛いと褒めてくれる。  何が言いたいのかというと、ぼくは英語が話せないハーフの美少年だが、女の子にはまったくモテないのだ。  そんなぼくだけど、四年生になってから同じクラスの女の子に恋をした。 「アポロ、英語の宿題やってきた?」 「もちろんやってきたよ。また交換するの、メアリちゃん」 「ちゃん付けは気持ち悪いからやめてって。メアリって呼んで」 「う、うん。メアリ」  間引(まびき)メアリ。おとうさんが日本人。おかあさんが外国人。どこの国の人かは聞けていない。ネコみたいに大きくてツンとした目に、ぼくはいつもドキドキしてしまう。  メアリはクラスの人気者で、誰に対しても平等に接してくれる。けっしてぼくだけに対等ではないことはわかっているが、それでもぼくは嬉しかった。
/89ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加