第一章 阿笠森のうわさ

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 八月十三日、木曜日。午後一時。天気はあいにくの曇り空だ。  ぼくは今日から三日間、メアリと一緒に彼女の通う『イチジク学習塾』の夏期講習に参加する。  夏期講習という名目だけど、半分はキャンプみたいなものらしい。森の中を探検したり、カレーを作ったり、星空をながめたり、最終日には盛大なキャンプファイヤーが行わる――予定だった。  しかし週末にかけて天気は悪くなるらしく、少なくともキャンプファイヤーは難しそうに思えた。  集合場所の阿笠駅で待っていると、長い髪をツインテールに結んだメアリが駆けてきた。 「アポロごめん! 遅刻しちゃったかな?」 「ええっ……そんな、ことは、ないよ……」  ぼくの言葉がたどたどしくなってしまったのは、メアリが可愛すぎたからだ。  動きやすい服装で、との塾からの指示通り、メアリは白い半そでのブラウスにチェック柄の半ズボン。半ズボンという呼び名でいいのかな。女の子のファッションはわからない。それにサスペンダーを着けて、いつものメアリよりも大人びて見えた。  チェック柄の半ズボンは、まるで名探偵シャーロック・ホームズのようだ。あくまでぼくのイメージだけど、探偵ドラマのホームズはこういったチェック柄をまとっていたような気がする。  メアリがホームズなら、ぼくはワトスンだ。彼女のような華やかさはみじんもないし、ぼくはサポート役が似合っている。それでいてホームズとワトスンは対等の関係だ。  ぼくもメアリとそうなりたいっていうのは、なんだか贅沢な願いなのかもしれないけれど。
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