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「アポロ、すっかり黙っちゃって……。どうしよう、本当に遅刻しちゃった?」
「いや、ぜんぜん。ぼくが早く着いちゃったんだ。それにしても他の塾の子は? 先生も来るんだよね?」
「阿笠駅から会場に行くのはわたしたちの他だと女の子がひとり。愛(あい)ちゃんって子だよ。塾の近くに住んでいるから、もしかしたら先生と一緒に来るかも」
「意外と人数少ないんだね」
「ほら、リモート組もいるって前に話したでしょ。愛ちゃんの家族は両親が共働きで、近くにおじいちゃんとおばあちゃんが住んでいないから、塾のみんなといたほうが楽しいんだって」
「そうなんだ。会場は阿笠森の中にある、ええと、誰かの別荘だっけ?」
「わたしも詳しく知らないんだけど、先生の親戚が昔建てたロッジがあるらしくて、そこが会場になるみたい。あの森の中にそんな建物あったかなあ。アポロは聞いたことある?」
「いいや。阿笠森に近づいたことすらないよ」
「もしかしてあのうわさを知ってるから?」
「うわさって?」
ぼくにはまるきり見当がつかない。するとメアリは猫のようににやりと笑ってぼくの耳元に近づく。心臓が飛び出るかと思った。
「『阿笠森には幽霊がいる。一度見たら眠ったまま魂を抜かれるのだ』って聞いたことない?」
「そんなのどこにでもありそうな作り話だろ?」
ぼくは強がって見せたが、実はこの手の話が大の苦手だ。するどいメアリは気づいたのだろう、ぼくの反応を楽しむようにさらに続ける。
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