38人が本棚に入れています
本棚に追加
*
父は昔、マラソンの選手だった。
決して悪い成績ではなかったが、他の優秀な選手に埋もれ、その才能が認められることはなかった。
それが とても悔やまれるのだろう。父は、引退した後も娘の私に望みを託すべく、幼い頃から走る訓練をさせた。
「お前が男の子なら、もっと鍛え甲斐があったんだがな」と、いつも口にしていた。
私は父に似ず、運動が苦手なうえに体もあまり丈夫ではなかった。
少し走っただけですぐに息が切れてしまう。目の前が真っ暗になって倒れてしまったことも何度もあった。
その度に父は深い溜息をつきながら
「こんなことでは話にならない」と、首を横に振るばかりだった。
娘の想いを顧みず、ただ自分の夢を追い求めるだけの父とのマラソンは、私にとって苦痛以外の何ものでもなかったのだ――
**
最初のコメントを投稿しよう!