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「雪ってさ、空から舞い降りてくる妖精みたいだよな」
ついに ちらちらと降り出した雪に、陽斗はそんな乙女ちっくなことを言い出す。空を舞う それを嬉しそうに見上げる彼の横顔は、羨ましいくらいキラキラしていた。
そんな陽斗が眩しすぎて、少しだけ意地悪を言ってみたくなる。
「雪なんて冷たいだけ。ちっともいいことなんてないよ」
「美織は雪が嫌いなのか? こんなに綺麗なのに」
不思議そうに顔を覗き込んでくる陽斗。その無邪気な様子さえ気に障る私は、きっと捻くれているのだろうけれど。足元のアスファルトに消えていく白い粒を見つめながら、こんなにも儚いものに魂が宿っているとしたら あまりに残酷じゃないの、と心の内で反論せずにはいられない。
「ああ、そうだ。今度の日曜日、マラソン大会があるんだってな」
私が素っ気無かったからか、陽斗は話題を変えてくれた。
だけど気分は悪くなるばかりだった。決して陽斗のことが嫌いなんじゃない。私にとって雪よりも嫌いなもの――それがマラソン大会だったからだ。
本当に、大嫌いなイベントだ。
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