アラノイアス

ー アラノイアス ー

【アラノイアス・オンライン5】

ゴ「まさか、あの修学旅行で皆んなが死んでしまうなんて」

イチ「そりゃ今こうしてオンラインで話している私たちだってそう思ってるよ」

ナナ「うん、なんか不思議な感じだよね」

サン「しかもだよ、俺たちのバスだけ転落事故だなんてありえねぇよ」

ゴ「あのニュースを家で見た時は何も言えずショックだった。　あの事故から今まで1ヶ月以上も学校へ行けなくなったんだよ」

イチ「まぁそりゃそうだな。　ショックを受けているゴの顔が目に浮かぶよ」

サン「俺たちだって何がなんだか分からなかったもんな」

ナナ「転落したのは一瞬すぎて、なんか痛みも苦しみも何もなかったよね？」

ゴ「事故の瞬間ってそういうものなんだね」

サン「それよりこの『アラノイアス』ってアプリすごくね？　ゴはよくこんなアプリを見つけたな」

ゴ「これでもいろいろなミーティングアプリを調べて大変だったんだよ」

イチ「これはスゴいよね。　だって死んだ日から四十九日(しじゅうくにち)までに、故人とオンラインで会って話しができるミーティングアプリがあるなんてね」

ゴ「皆んなが亡くなってそろそろ四十九日になるからあまり時間がなくて、このアプリを探すのに大変だったんだよ。　あと最初に生年月日とフルネームを入力するんだけど、これが皆んなの名前がわからなくて慌てて調べたよ」

ナナ「皆んなあだ名で呼んでいたからねぇ」

サン「まさか俺たち3人が死んでこのアプリをリアルで使うとはな」

イチ「でもこうやって亡くなった人ともう一度会って話しが出来るなんて、なんかちょっと嬉しいサービスだよねぇ」

ゴ「うん。　ただこのアプリが使えるのはたったの1回で、しかも1時間だけなんだよ」

ナナ「1時間かぁ、じゃあこの同窓会ももうすぐ終わりだねぇ」

サン「1時間はちょっと短いなぁ」

イチ「でもこうして久しぶりに皆んなと会えて、なんか凄く嬉しかったよ」

ゴ「また皆んなと会いたいなぁ」

サン「ゴォ、またそんなこと言うなよ」

イチ「そうだよ。　なんか分かんないけど、また皆んなと会えるって！」

ゴ「またすぐ会えるって、それどういう意味だよ？」

イチ「だってアラノイアス『ARANOYAS』のスペルって、『SAYONARA』の逆じゃん！」

サン「おぉ、この名前はそういう意味かぁ」

ナナ「そっか、サヨナラの逆だから死んでもまたこうして会えているのね。　じゃあまた次も会える気がするね」

ゴ「アラノイアスってそういう意味なのか。　俺、全然気が付かなかったよ」

イチ「だ・か・ら、私たちがあっちの世界に行ってもアラノイアスみたいなアプリで会えるんじゃないの？」

サン「そうだな、なんかそんな気がしてきたぜ」

ナナ「だね！」

ゴ「うん、そうだね。　俺また皆んなと会えるアプリを探しておくから」

3人「よろしく！」

イチ「あ、そうだ。　あっちの世界に行ったらまたハイスクール奇数組を結成しようよ」

サン「お、いいねぇ。　イチはやっぱり永遠に不死身だよ」

ナナ「賛成賛成！」

イチ「まぁそこにはゴがいないから、あっちの世界で新しいゴを探そうよ」

サン「ついでに、メンバーにいなかったキュウも探そうぜ」

3人「ハハハ！」

ゴ「なんだよ、新しいゴが入るとな俺寂しいなぁ」

イチ「うそうそ、ゴはお前の永久欠番だ！」

ゴ「俺はまだまだ皆んなとやりたいことがたくさんあったんだよね」

サン「俺はゴとまた野球の試合がしたいなぁ。　今度はエース対決じゃなく普通の試合でな」

ナナ「私はゴと一緒にお兄さんのライブに行きたい。　そして『いつか会うナナへ』を聞きたいなぁ」

イチ「私はゴとやることなんて、なぁんもねぇな」

ゴ「イチ、それは無いだろ。　また前みたいに俺を家来にしてくれよ」

全員「ハハハ！」

サン「そろそろ時間だ」

ゴ「待って、皆んな行かないで」

イチ「ゴォ、今までありがとうね！」

サン「ゴォ、今度また野球やろうぜ！」

ナナ「ゴォ、いろいろ楽しかったよぉ！」

ゴ「皆んな。　また絶対、絶対に会おうね！」

3人「ゴォ、幸せになるんだぞぉ！」

プツン・ツー・ツー・ツー

1時間経ったミーティングアプリはパソコンから強制削除され、アラノイアスはもう使えなくなっていた。

「皆んな皆んな、僕だけ置いていかないで」

僕はノートパソコンのモニターを両手で握りしめながら、いつまでもいつまでも泣いていた。
こうして僕たちハイスクール奇数組のオンライン同窓会は終った。

ーーーーー

それから1年後の夏。
高校3年になった僕は桂ヶ丘高校野球部のエースとなり、一応サンとのあの約束を守った。これから夏の甲子園に向けて県大会の試合が始まろうとしている。そして僕はいつものように朝からお母さんに叩き起こされていた。

「慎吾、また学校に遅れるわよ」

あのブレーキが効かない自転車から新しいマウンテンバイクに変わり、だいぶ慣れたこの通学路を爽快に走っていた。いつもの坂道を下り赤信号で自転車を止める。そしてブレザーからスマホを取り出して、僕はまた新しいミーティングアプリを探し始めた。

「亡くなった皆んなと会えるアプリとか、何かないかなぁ？」

奇数組のオンライン同窓会が終わってから、ずっと新しいアプリを探し続けている。

「あっ、おはようございます」

「おはよう。　車に気をつけて学校に行くんだよ」

「ありがとうございます！」

前にこの信号機の場所でぶつかりそうになった杖をついたお婆さんとは、時々こうして挨拶するようになっていた。

ジメジメとした長い梅雨も終わり、岡山にはこれから暑い夏がやって来る。
僕は空に浮かぶ遠い雲を見つめながら、アラノイアスで会った皆んなの顔を思い出していた。

「ゴォ、幸せになるんだぞぉ！」

少しでも幸せになれるように
僕はこれからも生きていこうと思う
いつかまた会う
ハイスクール奇数組の皆んなの分まで

信号が青になるとスマホをポケットにしまい、僕は自転車で坂道を下って学校へ向かった。

おわり