死がふたりを分かつまで

3/4
前へ
/4ページ
次へ
 発表された新薬はいち早く彼に届けられ、彼は運良く病気の治療に成功した。  余命はあと僅かだったが、その状態からの奇跡的な回復に、医者やメディアはこぞって彼の話を聞きたがった。  しかし、そんな新薬も完璧ではなかった。  それが医者やメディアが彼に押し寄せたもう1つの理由だ。  新薬の副作用。それは不老不死だったのだ。  病気が治った彼はまず髪や髭、爪が全く伸びなくなった。  それから1年、2年……5年と経過してもシワはもちろんシミひとつ増えない。互いに50歳になろうとしている今でも、髪が伸びないせいか白髪の1本も見当たらないのだ。  いつまでも若い彼は、やがて職場の若い女性から人気を得るようになり、年老いていくだけの私では、きっと物足りなくなってしまったのだろう。  あんなに大きな覚悟で誓った私への愛も、今は皆無と言っていいほどにすり減ってしまったようだった。  キスをしなくなり、傍にいることも減った。会話が減り、1人になれる自分の部屋に閉じこもって過ごすことが多くなった。  そしていつしか私は、最低限の会話で彼を見送った後、彼と結婚したことを後悔するようになった。  彼から離婚の申し出はなかったし、私から別れを告げる勇気もないまま、何十年も時は経ち、若かったあの頃とは逆の時が近づいて来ていた。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加