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「人間、生きてなんぼだ。そう思ったから、吉定も俺を使ってゆきを生き返らせようとしたんだろ?」
「……ううむ。あれはしかし俺の私欲で……」
「それで良いんだよ、人間は。欲が無ければ、生きる意味を見失うだろ。食べたい、飲みたい、戦いたい、それに」
ユキはためらいなく一気に言う。
「誰かに会いたい、ってな」
吉定はユキを見た。愛弟子と同じ顔の式神は、何百年も篠目家を見守ってきた。眠りにつく前は何人も見送ってきたはずで、寂しくはないのかと吉定は思った。
「……ユキ」
なんだ?とユキが首を傾げる。その顔は15のゆきであり、ユキの快活な性格が表情に現れている。
「いや、なんでも……」
言葉を濁した吉定に、ゆきは溜め息をついた。
「なんだよ、辛気くさい顔されると、こっちまで滅入るぜ。そういや和尚から仕事受けてんだろ?次郎の用事がないうちに、さっさと片付けるぞ、ほら」
ユキは吉定を引っ張り立たせると、袂から巻物を出し、そこに筆を走らせた。するすると書かれたのは、道である。
「境界を繋ぐからな。ちょっと酔うかもしんねーけど、まあ我慢しろ」
「……はあ?!いつの間にそんな技を?」
「ええとな、これは川で河童を退治したときに、見逃す代わりに教えてもらったんだ。猫の姿んときは筆が持てなくて出来なかったけどな」
「河童……」
「川の境界をうまく繋いであちこち行き来してるやつでさあ、そんときも、まんまと逃げようとしたところを、俺が皿を引っ掻いて阻止したんだ。知ってるか?皿って意外と柔らかいんだぜ」
「いや……特に知りたくもないな……」
苦笑いする吉定に、ゆきは自分の袖を掴むよう言う。軽くつまんだ吉定に、ゆきは「もっとしっかり掴まねーと、振り落とすぞ」と言い、巻物を翻した。
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