ユキと吉定のはなし(2)

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吉定は広孝に、野武士の荷物はないのか聞いた。 「荷物は全部広げてみました。盗ったもののなかに、商人のものらしきものは、ありません」 ふうん、とユキは言い、野武士の背後に回る。 「もののけの気配がするな」 くんくんと鼻を鳴らすユキの隣に、どれ、と吉定も近づいていく。 「ああ……確かに。これは獣の妖怪か?」 「だな。狐かなんかだろ。どっちも自業自得だなこりゃ。どうせこっちのやつも女に化けてなんか盗ろうとしたんだろうよ」 「……だそうだ」 吉定が伝えると、野武士はさらに動揺した。 「だっ、だってな?山ん中に女が一人でいて、にっこり笑うんだぞ?ついふらふらっと近寄ったら急に首になんか巻き付けてきて」 「そりゃ尻尾だ。ふわふわしてたろ?」 ユキが呆れて言う。 「そ、そう……ふわふわしてて……そのまま首をしめてきたから、思わず鎌で切りつけちまって……そしたら悲鳴は聞こえたけど姿が消えて……」 身ぶり手振りで説明する野武士を見ながら、聞いている和尚と広孝も、どっちもどっちですねえ、とうなずいている。 「とにかく、狐はすでにもののけであろう。悪さをしようとする者はどちらにしろ放っておけぬ」 吉定が懐から護符をだすと、ユキはそれを受け取り、ふぅっと息を吹き掛けた。 「お願いします……」 護符はかすかに動き、その表面から四つ足の動物を浮かび上がらせた。恰幅のよいそれは、狸だ。 「まあ、うまい具合に剥がしてやってくれ」 狸は吉定の言葉に答えるように首を回すと、野武士に向かっていく。
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