31人が本棚に入れています
本棚に追加
吉定は広孝に、野武士の荷物はないのか聞いた。
「荷物は全部広げてみました。盗ったもののなかに、商人のものらしきものは、ありません」
ふうん、とユキは言い、野武士の背後に回る。
「もののけの気配がするな」
くんくんと鼻を鳴らすユキの隣に、どれ、と吉定も近づいていく。
「ああ……確かに。これは獣の妖怪か?」
「だな。狐かなんかだろ。どっちも自業自得だなこりゃ。どうせこっちのやつも女に化けてなんか盗ろうとしたんだろうよ」
「……だそうだ」
吉定が伝えると、野武士はさらに動揺した。
「だっ、だってな?山ん中に女が一人でいて、にっこり笑うんだぞ?ついふらふらっと近寄ったら急に首になんか巻き付けてきて」
「そりゃ尻尾だ。ふわふわしてたろ?」
ユキが呆れて言う。
「そ、そう……ふわふわしてて……そのまま首をしめてきたから、思わず鎌で切りつけちまって……そしたら悲鳴は聞こえたけど姿が消えて……」
身ぶり手振りで説明する野武士を見ながら、聞いている和尚と広孝も、どっちもどっちですねえ、とうなずいている。
「とにかく、狐はすでにもののけであろう。悪さをしようとする者はどちらにしろ放っておけぬ」
吉定が懐から護符をだすと、ユキはそれを受け取り、ふぅっと息を吹き掛けた。
「お願いします……」
護符はかすかに動き、その表面から四つ足の動物を浮かび上がらせた。恰幅のよいそれは、狸だ。
「まあ、うまい具合に剥がしてやってくれ」
狸は吉定の言葉に答えるように首を回すと、野武士に向かっていく。
最初のコメントを投稿しよう!