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ユキは野武士を見た。彼は先ほどまで怯えていたとは思えぬほど、きりりとした表情をしている。そして、ぼろぼろの狐の頭を撫で、毛並みを整えてやっている。狐は二本足のまま、人間の女に姿を変えた。
「おお……そうだ、そなただ。近くで見るとなおのこと美人だな……」
ぽっと、狐女が頬を染めた。恥じらいながらも尾は喜びを隠せておらず、それを見ている吉定や和尚たちは、口をあんぐりと開けた。
「……な?なんだ……?それは狐が化けたおなごぞ?」
吉定の言葉を引き取ったのは、ユキだ。
「別に良いんじゃねえの?異種間の婚姻なんてそれこそ昔からあるし」
「いや……人間ともののけだが?」
「固いこと言うなよ。もともと化けられるやつらは人の格好して騙したまま、さらっと子供産んだりしてんだぜ。正体が最初からわかってるなら、あとから揉めることもねえしな」
ユキの言葉どおり、野武士は狐が振る尻尾を愛しそうに撫でている。絶対に揉めないかどうかは不明だが、少なくとも今ふたりには種の違いは既に問題ではないようだ。もともと野武士に転落していた若者は身寄りもないのだろう。連れ合いが出来、真っ当に暮らすすべを考えたなら、追い剥ぎなどの悪さもしなくなるかもしれない。吉定は和尚に目配せをした。
「……では、この件は丸く収まったということで、宜しいかな」
苦笑しながら頷く和尚の隣で、広孝がためらいがちに口を開いた。
「祈祷料は……」
そうなのである。
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