ユキと吉定のはなし(2)

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実際に悪し事は解消されたとはいえ、狐は祓われたわけでなく、祈祷はしたことになるのかと広孝は吉定をじっと見ている。寺の修復に充てられるなら、はした金でも欲しいのだ。 「うーん……そうだなあ。そもそも野武士に払える金はあったのか謎だけどな?誰かから巻き上げた金貰っても後味悪いし」 吉定がユキの言葉を伝えると、野武士は気まずそうに顔を逸らした。 「やっぱりなあ」とユキは思案し、二人の世界に浸る狐の尻尾を掴んだ。 「なにすんのさ」 「それはこっちの台詞だぜ。そっちの野武士、陰陽師をただで働かせようっていう不届きな考えだったようだな。夫婦になったお前も連帯責任だ。ちょっと働いて返してもらうぞ」 ユキはそう言うと、尾を掴んだ際に抜いた毛を数本、護符に包んだ。 「あっ……それ」 「預り金だ。なんかあったら呼ぶから、式神としてきっちり働けよ。賃金は祈祷料として相殺だ」 「ええー、なにそれ?」 「この場で祓わないだけ有り難く思え」 しぶしぶ了承した狐は、まだ夢見心地な表情をしている野武士と一緒に、街道がある山のほうへ帰っていった。 「さて、屋敷に帰るとすっか」 ユキは護符を懐にしまうと、吉定を手招きした。 「……あのな、さっきの……またやるのか?」 吉定は胸の前で手のひらを合わせる。 「境界を繋ぐ術というのは、便利だが体に負担などはかからんものかのう……」 「迷子にならなきゃ大丈夫だろ。人間ももののけも知らねーうちにどこかの狭間に迷いこんだりしてるからな。しっかり掴んどけよ」 ユキは和尚と広孝に「またな」と手を挙げ、吉定が挨拶し終わった瞬間に巻物を合わせて空間を繋いだ。 「うっ……うおおおっ……!」 吉定な珍妙な叫びは瓢箪にでも吸い込まれるように一瞬で消え、残された和尚と広孝は顔を見合わせた。 「いやはや……あんな活発な守り神では、吉定様くらいの術者でないと体がいくつあっても持ちませんねえ」 広孝の感心とも呆れともとれる言葉に、和尚も笑いながら頷く。 「まあ、こう言ってはなんだが、とても楽しそうであるから良いのではないか。ユキも、おそらくゆき(・・)も、な」 それを聞いて、はい、と広孝も笑った。
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