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実際に悪し事は解消されたとはいえ、狐は祓われたわけでなく、祈祷はしたことになるのかと広孝は吉定をじっと見ている。寺の修復に充てられるなら、はした金でも欲しいのだ。
「うーん……そうだなあ。そもそも野武士に払える金はあったのか謎だけどな?誰かから巻き上げた金貰っても後味悪いし」
吉定がユキの言葉を伝えると、野武士は気まずそうに顔を逸らした。
「やっぱりなあ」とユキは思案し、二人の世界に浸る狐の尻尾を掴んだ。
「なにすんのさ」
「それはこっちの台詞だぜ。そっちの野武士、陰陽師をただで働かせようっていう不届きな考えだったようだな。夫婦になったお前も連帯責任だ。ちょっと働いて返してもらうぞ」
ユキはそう言うと、尾を掴んだ際に抜いた毛を数本、護符に包んだ。
「あっ……それ」
「預り金だ。なんかあったら呼ぶから、式神としてきっちり働けよ。賃金は祈祷料として相殺だ」
「ええー、なにそれ?」
「この場で祓わないだけ有り難く思え」
しぶしぶ了承した狐は、まだ夢見心地な表情をしている野武士と一緒に、街道がある山のほうへ帰っていった。
「さて、屋敷に帰るとすっか」
ユキは護符を懐にしまうと、吉定を手招きした。
「……あのな、さっきの……またやるのか?」
吉定は胸の前で手のひらを合わせる。
「境界を繋ぐ術というのは、便利だが体に負担などはかからんものかのう……」
「迷子にならなきゃ大丈夫だろ。人間ももののけも知らねーうちにどこかの狭間に迷いこんだりしてるからな。しっかり掴んどけよ」
ユキは和尚と広孝に「またな」と手を挙げ、吉定が挨拶し終わった瞬間に巻物を合わせて空間を繋いだ。
「うっ……うおおおっ……!」
吉定な珍妙な叫びは瓢箪にでも吸い込まれるように一瞬で消え、残された和尚と広孝は顔を見合わせた。
「いやはや……あんな活発な守り神では、吉定様くらいの術者でないと体がいくつあっても持ちませんねえ」
広孝の感心とも呆れともとれる言葉に、和尚も笑いながら頷く。
「まあ、こう言ってはなんだが、とても楽しそうであるから良いのではないか。ユキも、おそらくゆきも、な」
それを聞いて、はい、と広孝も笑った。
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