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狐女の出した案とは、歌を詠み届けるというものであり、これは姫の心をいたく揺さぶったようで、すぐに返事が来たらしい。
「その内容がな……どうやら、昔の恋の歌を模したものらしく……」
姫も次郎のことを想っているが、伝えあぐねていたというような歌である。次郎に歌の教養があったのかと吉定が聞くと、意外な返事があった。
次郎とゆきの母、二の方が返歌の手解きをしたというのである。
「息子の恋文を母親が代筆ってな……おれなら引くけど知らなかったら『女心のわかるおひと』なーんて、うっとりしちまうんだろうな」
ユキは半分呆れ、半分は面白そうに言う。
「しかし二の方様が、歌を……とは、意外だが」
「ゆきたちの母親から、ずっと教えてもらってたんだろ。不思議でもなんでもねえよ」
「……ああ……!なるほど……」
「もともと貴族の娘だからな。直接なやりとりより、文や歌のほうが気持ちを伝えやすいのかもしれねーし」
「ふむ……それにしても狐の助言がこうもはまるとはのう…もののけでも、やはりおなごということか」
ユキはそのあと飯屋に行って、礼を伝えてきた。狐女がかいがいしく働く姿は、人間の女より真面目で楽しそうと聞き、吉定はその姿を想像する。
「なんや、獣は情が厚いというが、本当だな」
「駆け引きなんかしないからな。全く人間てのは、まどろっこしいんだよなあ……」
ゆきが言うように、直接気持ちを伝えあった次郎と姫は、あらためて夫婦になる約束を交わし、戦局が落ち着いている間に慎ましやかな祝言が執り行われたのであった。
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