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次郎は姫を呼び戻し、屋敷では皆、若い夫婦をほほえましく見守っている。そのうちにまた各地で小競り合いが起こるようになり、吉定はユキを伴い次郎と戦へ出るが、なにかあれば自分が盾になる気構えが以前より強くなった。それを見てユキは苦言を呈す。
「吉定もさ、加津や草太っていう家族がいるんだからそんな無茶することねぇぞ?そもそも雇われ軍師だろうが」
戦からの帰り道、馬上の自分と並走しているユキの声を聞きながら、吉定はちらと自軍を見た。小さな戦は、虚しい。得るものと失うものは同じくらいでも、こころが確実に疲弊していくのだ。
屋敷へ戻りほっと一息つき、吉定は縁側から夜空を眺める。
「軍師……か。もう少し大局が読めると良いんやが…如何せん星も多く読みきれん」
「他軍にも天文を読むやつらはいるだろうが、たかだか数十年勉強したところで、わかることなんか少ねえからな」
ユキは空を見上げた。
「……俺の星も、どっかにあんのかなあ…」
もとは化け猫のユキだ。生まれたのがいつかはもうわからず、だが何百年と生き永らえても、それすら星の寿命にははるか敵わない。吉定はどこか寂しそうなユキの横顔を見る。
「吉定の星は、どこにあるんだ?」
不意に問われ、吉定は「ああ」と生返事をしてから空を見た。雲に覆われた夜空の合間に、いくつか星が光る。懐から星図を出して広げると、空と交互に見始めた。ユキはその様子を、まるで勉強を教わる子供のような表情で見つめる。
「……ふむ」
吉定はひとこと、静かに呟くと、そっと星図を畳んで懐に仕舞った。
「なんだ、なにかわかったのか?」
猫のような目をさらに大きくして、ユキは吉定を見るが、吉定は苦笑して首を横に振った。
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