31人が本棚に入れています
本棚に追加
「やはりようわからん。まあ、なるようになるやろ」
「えー。陰陽師のくせに適当だな」
「一介の陰陽師なんぞ、ちっぽけな存在よ。さ、俺は寝る。朝になったら起こしてくれ」
吉定はそう言い、部屋の隅に祀られている木札を指した。
「ユキも寝たらどうや。戦で俺の周りをずっと飛び回ってて、疲弊してるやろ」
「うーん、まだそんな疲れてるわけじゃねえけど……」
さっさと寝床にもぐった吉定をちらと見て、肩をすくめてユキは夜空に飛び上がった。そのまま屋根に座り霞みがかった月を眺めていると、馴染みの野良猫がやってきて隣に座る。
「よしよし」
ユキが猫を優しくなでてやると、猫は喉を鳴らした。
「ゆき」
ユキはひとりごちた。
「お前の師匠は、人が好すぎるよなあ……」
その言葉には誰からも返事がないが、代わりに、流星が落ちていく。
「今年は流星が多いな……」
今度は猫が、にゃあ、と相づちを打った。夜空を流れる幾筋もの光は、ふわっと現れ、すっと消えていく。
少し経ってから、ユキは部屋へ戻り、自分の本体である木札のうえに降り立つ。追いかけて来た猫に挨拶をすると、姿を消した。
猫もひとこえ鳴くと、闇の中、庭を抜けてどこかへ去っていく。屋敷は、そのまま静寂に包まれていった。
最初のコメントを投稿しよう!