ユキと吉定のはなし(3)

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雨の多い季節に天候を読み、相手の奇襲の裏をかく形で逃げのびることができた次郎たちの軍は、仕える守護からの要請で補給の行軍を任されるようになった。 「せっかく食糧を運んでも、食えなくなったら意味がないからの。ユキのおかげで、すんなり進めるのはありがたい」 雨、そして川の増水を避けて前戦に詰める味方のもとへ向かう。ユキが少し先の道が塞がっているのを上手く見つけて助言をするため、吉定の一行は思いの外早く自軍へ辿り着くことができた。任務を済ませ休む時刻になり、吉定は改めてユキに礼を言うが、ユキはからからと笑う。 「おれは戦局は読めねえし、そもそも人間のいざこざには首突っ込めねーんだ。道くらいなら教えてやれるからさ」 命のやり取りを目の当たりにする場所よりは、裏方の方が良いという吉定の隣を、ユキはゆっくり浮遊している。 「戦でも、俺はユキがいるおかげでかなり助かってるぞ。たまに不意にユキとぶつかり敵が動揺しとる」 「んなこと言ってもよ、避けきれねーんだよ」 なにが起きているかわからぬ歩兵は、逃げ惑うだけだ。 「だがな、腕のよい術師がもし相手側にいた場合、ユキは祓われたりしないやろか」 「うーん……俺は一応、他の人間には見えないらしいけどなあ…もののけや式神を遣われたらわかんねーけど、そんなすぐやられるほど(やわ)じゃねえよ」 土地神の加護により生き返ったユキは、いままでも難局を潜り抜けてきたのだ。吉定はくくっ、と笑うと、真顔になり、前を向いたままユキに話しかける。 「もし……もしも、俺の命が消えたとしても、お前は今後も篠目の家を…草太の傍にいてくれるんやろな」 「式神としてなら、な」 ユキは呟く。 「俺はもともと長生きしすぎてもののけと化した猫だ。もののけが存在するのに、理由は不要……けどこの体は、おまけみたいなもんだ。ゆきの気持ちが混ざってる今は…存在意義みたいなもんができちまったら…それが無くなったらどうなるかは、俺にもわかんねえ」
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