ユキと吉定のはなし(3)

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以前ユキは、人間は欲により生き生かされていると話していた。欲が無ければ、未練がなくなればどうなるのか、と吉定は答えのわからない問いを反芻する。 「人間というのは、弱いくせに強欲よの」 吉定は苦笑する。 「儚い、短い人生のなかで、何度も悪あがきをする」 ユキは笑った。 「そんなの今にわかったことじゃねえだろ。だから一生懸命生きてんだ。俺はそういう奴らを沢山見てきてる。軍場(いくさば)で辛気臭いこといってんじゃねーっての」 ユキは腰に手をやり、やれやれといった風に大袈裟な格好をした。もう幾度となく繰り返されているやりとりは、一緒にいられる時間の少なさを忘れないためのものでもあった。だが心構えがあるのとないのとでは、喪失感が違う。 「寂しいか」 吉定は、以前飲み込んた言葉を口にした。ユキは「なにを」とうそぶくが、敢えて答えない。二人は少し目線を合わせたあと、どちらからともなく笑いだした。 「……いやはや、本当に年寄りの愚痴は辛気臭くてかなわんな。朝は早いのでさっさと休むとしよう」 吉定はそういうと、簡素な寝床に横になった。ユキは一呼吸置いてから、詰め所の庭木にのぼる。一行の中には、まだ年若いものも多い。人員も入れ替わり、ユキも全員を把握できてはいないが、用心のため吉定からは極力離れないようにしている。 「寂しい……か。寂しく無いわけねぇだろ」 ユキは苦笑し、そのまましばらく夜空を見つめていた。
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