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ユキと吉定のはなし(4)
翌日は曇りだった。
雨上がりでぬかるんだ山道は、歩兵の足と気力を鈍らせ、次郎や供が乗る馬も、思うように脚を出せず疲れがたまっているようだった。
「なあ……もう少しゆっくり帰っても良いんじゃねえの?」
ユキは吉定の近くに浮遊しながら、あたりを見回す。木々に囲まれ湿気がたまっている上に、気温は高い。体に熱気がこもっていくのをいくらか楽にしようと、一行は口で呼吸をしながら懸命に足を動かしている。
「……俺もそう思うが……なにぶん次郎様の判断でもあるからな……」
馬上の吉定も表情に疲れを滲ませているが、少し離れたところにいる次郎はそんなことをおくびにも出さない。
「しかたねえな。さっさと帰るか」
ユキはそう言うと、頭上高く舞い上がり、木立を抜けていく。天候と、周囲に敵がいないか見るためだ。
遠くに雨雲を確認したユキは、距離と時間をはかり、吉定のもとへ帰る。頭上高くから、おおい、と声を掛けようとしたとき、ユキは木の影に動くものを見つけた。野犬か、大人の狐か。そう思ったとき、その影が素早く手を動かした。
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