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その場に残された吉定は、空を見上げる。ユキもその視線を追うが、雨雲が覆う昼間の空には、何も見えない。
(流れ星は)
吉定の言葉がユキに聞こえてくる。元々もののけであるユキの頭の中に直接聞こえるのは、この世のものでないものの念。すでに吉定の魂は肉体より離れかけているのだ。
(流れ星は、俺を射る矢だったんやなあ)
自分の運命を司どる星を見た吉定は、そこに流れ星が刺さるように流れていくのを見たのだ。
「なんで……」
ユキは嗚咽しながら言葉を絞り出した。
「なんで俺に言わねーんだよ……そうしたら、守ってやれたかもしれねえのに……」
吉定はかすかに笑った。
(それは、天命に背くということやからなぁ……残念ながら抗えん)
大粒の涙をぼろぼろ流しながら、ユキはじっと吉定を見た。
「俺を……お前に復活させられた俺を、一人にするのかよ……」
(すまん)
「謝られてもなあ……だいたい勝手なんだ。ゆきの体に無理矢理ねじこんでさあ」
(ああ、それこそ……俺の欲に付き合わせてしもうて)
だが、と吉定は優しい笑みをユキに向けた。
(そのおかげで、ユキとも会えた。短い間やったけど、楽しかったなぁ…)
ぐいっ、とユキは羽織の袖で涙を拭い、それを見て吉定はからかうように笑う。
(自分の出自を知ったときすら、泣かんかったのに)
「うるせえ……それはゆきの話だろ」
ユキも泣きながら笑う。
次郎はずっと泥と血にまみれた吉定を抱き抱えているが、ユキが吉定と会話しているであろうことを慮り、何も言わず場を見守っている。
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