ユキと吉定のはなし(4)

3/6
前へ
/148ページ
次へ
その場に残された吉定は、空を見上げる。ユキもその視線を追うが、雨雲が覆う昼間の空には、何も見えない。 (流れ星は) 吉定の言葉がユキに聞こえてくる。元々もののけであるユキの頭の中に直接聞こえるのは、この世のものでないものの念。すでに吉定の魂は肉体より離れかけているのだ。 (流れ星は、俺を射る矢だったんやなあ) 自分の運命を司どる星を見た吉定は、そこに流れ星が刺さるように流れていくのを見たのだ。 「なんで……」 ユキは嗚咽しながら言葉を絞り出した。 「なんで俺に言わねーんだよ……そうしたら、守ってやれたかもしれねえのに……」 吉定はかすかに笑った。 (それは、天命に背くということやからなぁ……残念ながら抗えん) 大粒の涙をぼろぼろ流しながら、ユキはじっと吉定を見た。 「俺を……お前に復活させられた俺を、一人にするのかよ……」 (すまん) 「謝られてもなあ……だいたい勝手なんだ。ゆき(・・)の体に無理矢理ねじこんでさあ」 (ああ、それこそ……俺の欲に付き合わせてしもうて) だが、と吉定は優しい笑みをユキに向けた。 (そのおかげで、ユキ(・・)とも会えた。短い間やったけど、楽しかったなぁ…) ぐいっ、とユキは羽織の袖で涙を拭い、それを見て吉定はからかうように笑う。 (自分の出自を知ったときすら、泣かんかったのに) 「うるせえ……それはゆき(・・)の話だろ」 ユキも泣きながら笑う。 次郎はずっと泥と血にまみれた吉定を抱き抱えているが、ユキが吉定と会話しているであろうことを慮り、何も言わず場を見守っている。
/148ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加