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「ずるいな……俺を復活させておいて、今度は置いてきぼりにしちまう。寂しいから呼んだんだろ?なのに俺が寂しくなるのは、いいのかよ……」
次郎が、吉定の命が消えたのを確認して嗚咽をもらした。
「昔から、ずっと吉定の祖先を見送ってきたんだ。どれだけ経っても、置いていかれるのは慣れねえのに……」
ユキは、すでに次郎によって矢の抜かれた吉定の首にそっと手をあてる。ほんの数刻前までは呼吸をし、脈を打っていたのだ。もう反応のない冷たい肌から、ユキは手を離した。懐から護符を取りだし、式神を放つ。
「……お願いします……」
鳥の形をした式神は西へ飛び立った。次郎の一行が屋敷へ着くよりもはやく、鳥は半日も経たずに加津と草太のもとへ着いた。知らせを受けた草太から寄越された返事は、星のさだめを読みすでに父親の死を覚悟していたというものだった。
吉定の体は加津達の到着を待たずに、願然和尚らによって荼毘に付されたが、加津は泣きはらした顔を隠さずに、気丈というよりは本心から「苦しんでいた顔を見ずに済んだ」と言っていた。
「加津も草太も、強いな」
墓前でユキがそう言うと、加津は力無く笑う。
「強いわけやないよ。もともと死と近い場所を常に生きてきた家系に嫁いだんやから、いつ何が起こっても天命と思うよう、あの人からは言われてたんやし」
加津はふう、とため息をついた。
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