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「ねえ、修行ってなにするの?」
寝ぼけ眼をこすりながらも、ぱくぱくと寅吉はあさげを食べる。
「そうだなあ……小さな式神でも使ってみるか」
穏やかな口調で答えるのは草太だ。自分自身も幼い頃からもののけが見えて苦労したが、修行嫌いだったので子供にたいしてもそれほど熱心でもない。
「草太さん」
そんなのんびりした夫に、せつはやや厳しい口調で言う。
「これからの世は、弱いものは生き残れるか危ういものです。寅吉のためにもきちんと教えてやってくださいね」
「うーん……」
草太の返事は煮え切らない。
「そもそも、亡くなられたお父上は、この家の子孫として生まれ変わるというではありませんか。それまで、この戦が多いなかでもうまく立ち回り、無事生き残れるよう育てるのが、跡取りの役目なのでは」
せつは真面目に熱弁する。勿論寅吉に対しては親として愛情があるが、嫁いできたものの責任も感じていたようであった。答えあぐねている草太にかわり、寅吉が口を開いた。
「ユキは、ずっとこの家にいるの?」
うん、とユキは頷く。
「どうして?お祖父様の生まれ変わりに会いたいから?」
7つともなれば、道理はわかっている。半分は無邪気に、半分は疑問として、そしてほんの少し試すように寅吉はユキに聞いた。ユキは、子供の突然の質問にやや緊張している草太をちらと見ると、笑顔で寅吉に向き直る。
「会いたいのは本当だ。けど俺は、寅吉も草太もせつも、みんな大好きだからな。みんなと過ごすのが楽しいから、この家にいるんだ」
その笑顔から本心とわかった寅吉は、頬を緩めて安堵の息を吐いた。
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