終章

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聡子はわざと、何気ない風を装い、常々気になっていたことをユキに問うた。 「……生まれ変わりの人に会えたら、ユキちゃんはどうなるのかしら……結局はまた、別れが待ってるってことでしょ?」 聡子が篠目家に伝えられるユキの「待ち人」の話を聞いたのは、靖成が産まれて少し経ってからであった。その頃にはもう、ユキの愛情は真っ直ぐ子供本人に向けられているとわかっていたが、それゆえにまた、ユキが再度背負うかもしれない悲しみを憂慮していたのだ。その悲しみの一端である跡取り息子を自分が産んだという事実も、嫁いだ身として以上の苦悩を生んだ。 「もしくはユキちゃんが……本懐を果たしたら消えてしまう可能性は、ある……?」 「どうだろうな」 ユキは聡子の質問に対し、あごに手をやり考える。 「俺にはもともと祀られていた本体がある。さすがに500年これで過ごしてきたのに、いまさら『はいさよなら』って突然消えるとも思えねーんだけど」 「500年、よねえ」 「化け猫時代から合わせると千年超すけどな」 ユキは笑う。 「体を……姿を変えて、人の世を人間以外のものとして過ごして、何十人の人生を見送ってきても、俺はずっと俺のままだ。短い人間の寿命とは相容れない。ただ……」 「ただ?」 「あの人と、酒を酌み交わしたことがなかったな、と思ってさ」 15で命を喪ったゆきと酒を飲みたかった、というのを、ユキはただ中年の愚痴として呆れて聞いていたのだが、形だけでも果たしたことはなかったのだ。
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