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「うん、かわいいなあ」
ユキは愛情をこめて、靖成の頭をなでた。そうしてふと、自分の手を見つめる。
「さっちゃん」
「なに?」
「俺は、こうして靖成を抱っこしたり撫でたりできるだけでも、この姿になって良かったと思ってるよ」
それを聞き、聡子は泣き笑いの顔になった。
「ほんとに……ユキちゃんは人間ができてるわねえ…」
「いや、俺は式神だってーの」
ははは、と夕方のマンションの一室に、笑い声が響く。他人からは母親が幼児をあやしてるだけにしか見えないこの光景は、ユキにとってはかけがえのない、幸せなものなのだ。空には、うっすら月が見え始めており、それを指さす靖成に、ユキは優しく話す。
「月からしたら、俺が待ってた500年なんてあっという間だろうな」
靖成は返事の代わりに大あくびをした。
「あらやだ。今から寝たら夜眠らなくなりそう。ユキちゃんが寝かしつけてもなかなか寝ないときあるでしょ?」
「確かになあ……ここまで手のかかるのは、そんなにいなかったぞ。おい、靖成。早く自立しろ。さっちゃんにいつまでも手間かけさせんなよ」
そこで聡子が「手に負えなくなったらユキちゃんにお任せするわよ」と言い、ユキが『えー』と眉をひそめ、靖成の頬をつつきながら更に言う。
「まあ……それもありかもしれねーな。一緒に暮らす相手がいるってのは、楽しいもんだ。嫁さんなら、なお良しだけどさ。うん、できたら朝きちんと起こしてくれる人が良いぞ」
そうそう、と聡子も同意する。
きょとんとする靖成をあやしながら、ユキはもう一度月を見上げ笑った。
完
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