2人の出発点

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 「ひさしぶり、元気?」 「うん、随分久しぶり。そっちは元気?」 「まあね、それより、最近会社が軌道に乗ってきてさ、君は経理の経験あったろ?僕の会社に来て一緒に働かないか?」 「え?もしかして自分で会社作ったの?」 「そう、まだ小さい会社だけど最近仕事を沢山貰えるようになってきて忙しくてさ、今ヘッドハンティング中」 「そうだんだ、すごいね!私も転職して丁度今経理の仕事をしているから力になれない事もなさそうだけど、お給料は?」 「まだ駆け出しの会社だから、あんまり沢山は期待しないで欲しいな。でも今君が貰っているお給料と同じくらい出せるように頑張るから」 「どうしようかな……あれ?赤ちゃんの泣き声?」 「そう、最近生まれたんだ」 「そうなんだ、ごめん、せっかく誘ってもらったんだけど考えさせて」 「わかったよ、じゃあまた」 「ごめんね、じゃあ」  「もしもし、おかあさん、久しぶり。うん、ごめんね、なかなかそっちに帰れなくて。大丈夫、体だけは丈夫に育ったから。お母さんに似て。大丈夫、最近ダイエットも順調。無理なんて全然してないよ?最近肌の調子もいいし、モデル並みなんだから。じゃあ、今度そっち行く時までにもっと鍛えておくからね。え?いや、もう別れたよ。なんでって、仕方ないでしょう?縁が無かったんだって。もう、しつこいよ?孫は諦めて、ごめんね、親孝行出来なくって。お父さんは元気?そう、じゃあ近々顔出しておくね。わかった、行く前に連絡入れる。いいよ、バスもあるし。大丈夫、本当は免許も返納して欲しいくらいなんだからね?じゃあ、近いうちに。うん、おやすみ」  rrrr………  「課長、お疲れ様です。今日もコンビニ弁当ですか?たまにはラーメンでもいきましょうよ」 「いいの、もう若くないんだしカロリー計算しながら食事しなきゃあっという間なんだから」 「あ、そういう事、私に対して言ったらセクハラですよ?」 「あなたは私と違って顔は可愛いんだからもうちょっと体形に気を遣ったら?ちょっと気を抜いてるとあっっっっっっっっっっという間に私みたいに婚期逃すんだからね?」 「食べるのをやめる位なら私は結婚なんてしない!あ、じゃあ、その唐揚げ私が食べてあげますね」 「はいはい、その性格、うらやましいわ」 「そういえば結構前にすっごいイケメンと付き合ってるって言ってた人、なんとなく自然消滅したって言ってましたよね?寄り戻したらどうです?」 「あー。そういえば最近会社が忙しいから一緒に働かないかって電話来てたなぁ」 「え?!ほら、向こうはまだ気があるんですって!」 「ちょっと!静かにして!子供が生まれたって言ってたし、もう結婚したっぽいんだよね。なんか、デリカシー無くって幻滅」 「じゃあ奥さんと子供の前で元カノに電話してたって事ですか?サイテー」 「ね?なんか嫌でしょ?だから、この前もう一回電話来てたんだけど無視しちゃった」 「それって、ヤキモチなんじゃないですか?」 「ヤキモチ?まさか、子供がいるのに昔の女に電話するっていう神経が信じられなかっただけ」 「引き抜きの電話だったんだから、答え聞きたかったんじゃないです?」 「だったら、また連絡くらい来るでしょ?」 「本当は復縁の電話かと思ったら子供の声が聞こえて怒ってるだけなんじゃないですかー?」 「違うったら!もうこの話は終わり!」 「あ、課長待ってくださいよー!」  「はい、どちら様ですか?」 「管理会社の者ですが、下の階の方から苦情が来ています。少しお話よろしいでしょうか?」 「良くないです。声ですぐわかります。お引き取り下さい」 「ごめんごめん!ちょっと、話できないかな?」 「どうぞ」 「ありがとう、おじゃまします」 「この前はごめんね、電話くれていたのに気付けなくて」 「いいよ、忙しかったんだろ?こっちこそ急かしているみたいで悪い」 「忙しかったっていうより、奥さんと子供がいる人に昔の女から折り返し電話なんて出来るわけないでしょう?どんな状況かもわからないのに」 「奥さんと子供?」 「え?だって、子供が生まれたって言ってなかった?」 「あははははは!あの話か、あれは僕の妹の子供の話。妹がいた事くらい覚えているだろ?」 「え?うそ、そうだね、確かに妹さんいたもんね。ごめんなさい、てっきりあなたの子かと思って」 「だろうね、君の事だから何か勘違いして気を遣っているんじゃないかと思って押しかけてきちゃったんだよ」 「そう、そうだよ。もとわと言えばあなたが紛らわしい言い方をしたのが悪いんだからね?」 「本当にごめん。でも、君にヤキモチを焼いて欲しくってさ」 「ヤキモチ?あんな重たい話はヤキモチ焼く対象にならないでしょう?!もう私達は終わったんだから」 「終わった?どちらからとも別れようって話にはなっていなかったはずだよ?」 「そうだけど、もう3年も連絡を取り合っていなかったのに終わっていないと思うの?」 「思うよ。僕は今日の為にこれまで頑張ってきたんだから」 「そういうの、押し付けっていうんだよ?3年も放っておいて私の為だなんて虫が良すぎなんじゃない?」 「そうかもしれない、でも、君の方からだって連絡をくれなかっただろう?」 「それは私が私自身に自信が無かったから。毎日連絡来ていた人から急に連絡が来なくなったら捨てられたんだって思ってしまったって仕方ないでしょう?」 「そんなの、君の意志じゃないじゃないか。君はどうしたい?」 「……」 「ごめん、まずは僕から言うべきだったね。僕は君と結婚したい。あの頃の僕はあの頃の君と同じように自分に自信が無かった。稼ぎも君より少なかったし、容姿にも自信が無かった。でも仕事も軌道に乗ってきて自分に自信が付いてきた今なら迷いなく君を迎えに来ることが出来た」 「自分勝手すぎ。私に新しいパートナーがいないとでも思っている時点で見下されているようで気に入らない……。私だって自分に自信が持てるように努力してきたんだから」 「じゃあ、どうしたら僕とやり直してくれる?僕はどうしたらいい?」 「そうやって私の言う事に反論する事で言い負かそうとしているんでしょう?自身が付いたのはいいけどちょっと過剰なんじゃないかな?!私は仕事で成功したあなたに守ってもらってずっと劣等感を抱えながら生きていけって言っているようなものじゃない……帰って!」  「もしもし、また電話してくるなんて、ほんと懲りないよね。うん、もう家だけどこうやって毎日電話されても困る。私の貯金?そんな事聞いてどうするつもり?!自分で作った会社なんだから、自分でどうにかできないからって私に頼ろうとしないで。え?違う?じゃあどうして貯金の事なんて聞くの?私に答えを求めないで。それと、今度ちゃんと話し合わない?このままじゃ二人とも疲れてしまうでしょう?私は繁忙期以外は定時で帰れるから。うん、わかった、じゃあまた」  「久しぶり、いつ予定が空くのかと連絡を待っていたけど、またこんなに放っておかれるだなんて思っていなかった」 「ごめんごめん。僕も色々とやる事が多かったからさ。この近くに良いお店があるからとりあえずそこに行こう」 「良いお店って?夜はあまり食べないようにしているから私は軽くしか食べないけどいい?」 「大丈夫、そう思って良いカフェを探しておいたよ」 「こんな時間でもやってる所あるんだ?ちょっと楽しみ」  「ここだよ」 「え?クローズって。閉まってるじゃない」 「今日は特別に入れるようにしてもらっているんだよ」 「特別って……確かに素敵な感じのお店だけど、看板も無いようなお店に入って大丈夫なの?」 「大丈夫大丈夫、ほら、入って」 「入ってって……椅子もテーブルもないでしょ?」 「そう、静かに話すにはちょうどいいだろ?飲み物は、これね」 「これね、って……ペットボトル?まぁ、話をするだけなんだからここでもいいけどね」 「で、色々考えて答えを出したつもりなんだけど」 「待って、私から先に話をさせてくれないかな?」 「君から?そりゃ構わないけど」 「ありがとう、まずこれを」 「資料?事業計画書?もしかして、君も自分の会社を?」 「そう、あなたと対等でいたい。養われたり雇われたりすることであなたにそんなつもりはなくても私は劣等感を感じてしまうの。そんな感情で一緒にいたくない。だから、私も会社を興して私は私でちゃんと稼いでいきたいと思ってる」 「……カフェか。君、紅茶が好きだったもんね。とってもいい考えだ」 「私はあなたの会社を手伝えない。この条件を飲んでくれるならあなたと結婚してもいいと思った。3年も経ってしまったけど、久々に会ってから、暫く電話で話していたらあの時の気持ちを思い出す良いきっかけになったんだから」 「そうか……感動だな……」 「ちょっと、泣いてるの?」 「そりゃそうだろう?僕と君の気持が繋がったんだよ、偶然じゃないとしたら奇跡か運命だよ」 「大げさだね、で、あなたの考えを聞かせてもらえる?」 「ああ、あぁ。勿論だよ。実は、会社を辞めてきた」 「え?」 「社長だからやめたというより売却?っていうのかな。丁度業績が上向いてきた所だったから買い手もすぐ見つかって良かったよ」 「売却って、せっかく作った会社でしょう?!まさか私があなたの誘いを断ったから?結婚の話にすぐ頷かなかったから?!」 「会社を作ったのは君の為だったんだ。君と一緒ならどんな会社でも良かったんだ。それをこの前君に教えてもらったような気がする。君と一緒に会社を作った方が、二人並んで出発出来るんだって」 「だからって、会社を売ってしまうなんて……」 「実はこの場所、君と一緒にカフェをしようと思って契約しちゃってるんだ」 「え?私に何の相談も無しに?」 「それは……本当にごめん。でも、ここならきっとうまくいくような気がしたんだ。ここで僕と一緒にカフェの経営を始めて欲しい。これが僕の答え」 「ここが……どういう、場所かわかってて……?」 「うん、初めてデートした場所。二人の関係が始まった場所からまた新しく始めよう。仕事も、二人の関係も。僕と、結婚してくれませんか?」 「うん……もちろん。こちらこそ………よろしくお願いします」
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