My Sweet Teddy bear

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「だから、それでなんだって俺の所に来るんだよ」  俺を室内に入れてくれたものの、ショーゴはとても不機嫌そうな顔で言った。 「他に行くトコ、思いつかなかったから」 「レンんトコに居たく無かったんなら、ハルカの…いや、自分ん家に帰れよ」 「ヤダよ。あんな、誰も居ないトコ」 「オマエはっ!」  ショーゴは、本当に怒ったような顔で俺を睨み付けた。 「どうしていつまで経っても、そうなんだよっ! 大体、一日や二日留守にされただけで、ヘソ曲げて次の男作ってるんじゃねェよっ。しかもこんな説教してる相手が男かと思うと、俺はもう怒ってるのも莫迦莫迦しくなるぜっ!」 「じゃあ、怒るなよ」 「怒らせてるのは、オマエだろうがっ! 自分が怒られてる自覚もねェのかっ!」 「莫迦莫迦しくなるっつったのは、そっちじゃんか…」 「ウルセェッ! なんだってオマエはトラブるたんびに俺のトコに来るんだ? オマエに惚れてる阿呆共に、ホントはどうして欲しいのかしっかり言って、面倒見て貰えば良いだろうっ」 「ハルカにはちゃんと言ってあるのに、アイツ帰って来ねェんだもん」 「俺が言ってるのは、オマエの性癖の事じゃなくて、オマエの望んでる…」  ショーゴがそこまで言った時、玄関のベルがキチガイみたいに鳴った。  ものすごくカチンときたらしく、ショーゴは舌打ちすると恐ろしく乱暴な足どりで玄関に向かう。 「じゃかぁしいっ! 誰だっ!」  居間にいる俺にも聞こえる程の勢いで扉を開け、間髪入れずに聞こえたショーゴの声。  やってきた相手は相当驚いただろうとか思っていると、足音が二つになって戻ってきた。 「おい、シノ。お迎えが来たぞ」  ショーゴの後ろに、申し訳なさそうな顔のレンが立っている。 「なんだよ? 俺は今夜、オマエのトコには行かねェぞ」 「さっさと連れて帰ってくれ。俺は迷惑してるんだ」 「さぁ、シノさん。行こう」  レンは俺の腕に手をかけて、立ち上がらせようとしたけれど、俺は頑として立ち上がらなかった。 「ほら、シノさんってば」 「行かねェって言ってンだろ。俺、今日はショーゴんトコに泊まらせて貰うから、オマエ帰れよ」 「勝手言ってるんじゃねェよっ!」 「俺は待たされんの嫌いだけど、迎えに行くのはもっと嫌いなんだよ。いなかったら呼びに来いなんて言ってるレンの所になんざ、行くのはお断りだね」  子供みたいに我を張る俺を、レンは完全に持て余したみたいになって腕から手を離した。 「いい加減にしろよっ! 俺はもう金輪際オマエのくだらないトラブルに巻き込まれるのはゴメンだっつったろーが! 大体なぁ、なんも言わないで全部理解して貰おうとしてる、その根性がイヤなんだよ! テメェはよ!」  吐き捨てるように言ったショーゴを、俺は少し恨みがましい顔で見上げる。 「ショーゴは言わなくたって俺がこうしてる理由、知ってるじゃないか。解ってくれてるじゃないか。俺がして欲しいコト、してくれるワケじゃないケド知ってるだろ」 「アホかオマエはっ! それじゃ、出来ないヤツと同じだろ。そんならちやほやしてくれる連中の方に行けよっ! オマエが居るコトを、迷惑に感じないヤツラのトコによっ」  ショーゴに怒鳴られて、俺はますます意固地な気持ちになってしまった。 「イヤだ。…だって俺、側にいて欲しいからセックスさせてやってるだけなのに、俺にセックスを要求しておいて側にいてくれないヤツのトコになんか居たくない」 「じゃあ一人で居ろよっ。俺に迷惑掛けないでっ!」 「一人じゃ眠れない」 「そりゃあオマエ、勝手な言い分ってモンだろがよっ!」 「おい、ちょっと待ってくれよ。少しは、俺にも解るように話をしてくれ」  俺とショーゴの間に、レンが割り込んできた。 「ショーゴさん、どういうコトなのさ? 俺は、シノさんがアレ好きなんだとばっかり思ってたケド、違うの?」 「だから、言っただろ。コイツはただの甘えたガキなんだよ。コイツのおふくろは、コイツがよっつだかの時に家を出ちまって、コイツはアル中の親父に年中ブッ叩かれてたんだ。んで、学校に上がった頃から俺ン家に転がり込んでてさ。同情したウチの親が大目に見てくれてたから、高校入る頃までは3日にいっぺんくらいはウチに泊まってたりしたんだよ」 「それと、なんの関係が?」 「コイツ、15〜16で女覚えて、だんだんウチにも自宅にも寄りつかなくなっちまってさ。挙げ句に男まで覚えて、バンドで一緒になった時にはもうこういうのになってたんだよ。結局コイツは、同情されるのに馴れちまって、甘やかされたいだけなんだ」 「うるせェな! そんなんじゃねェって、言ってるだろっ!」 「そんなんじゃないなら、俺はオマエを解ってやってるワケじゃねェんだろ。だいたいなぁ、誰もオマエのおふくろの代わりになんか成れねェって、何度言わせりゃ解るんだよっ! そんなにおふくろが恋しいなら、うじうじ言ってねェでさっさと会いに行けって言ってんだろっ!」 「えっ? おふくろさんの居場所、判ってるの?」 「ああ。中学卒業する頃、授業が無くなって暇になるじゃん。あん時、俺も手伝って捜してやったんだよ。でもコイツ、住所が判ってもビビって会いに行かねェんだ。莫迦だよ」 「違げェよっ! 俺は…」 「違わねェだろっ、オマエは、おふくろが会ってくれなかったら怖いって、思ってるんだ。おふくろがオマエを置いて出ていったのは、アル中親父から一人で逃げ出したかったからだって、言われるのが怖いから、自分が愛されてなかったら怖いから…」 「違うって、言ってるだろっ!」  俺は、絶叫してた。 「なにが違うんだよ? オマエは…」 「ショーゴさん、ちょい待ち」  問いつめようとするショーゴを遮って、レンは不意に膝を突いて俺の顔を覗き込んでくる。  レンの顔が歪んでいる事で、俺は自分がとても無様に泣いている事に気がついた。 「なにが違うんだ? 言ってみろよ、シノさん」 「違う…、俺は…ビビってるワケじゃ…。俺は、…俺は…ちゃんと会いに…」 「えっ?」  振り返るレンに、ショーゴは酷く驚いた顔で首を左右に振ってみせる。 「ショーゴさん、知らなかったの?」 「全然。そんで、どうだったんだよ。おふくろさん、オマエに会ってくれなかったのか?」  俺は頭を振った。 「じゃあ、会えたのか? 一体、いつ会いに行ったんだよ」 「ショーゴに…、迷惑…掛…けたくなくて…、卒業式の後…一人で行った…。でも…、…も…、居なか…た」 「居ないって、転居してたのか? ならそういえば、また一緒に探してやったのに、なんで黙ってたんだよ?」  少し責めるような口調のショーゴに、手足を縮めて蹲っている俺は、ようやくそれを否定するように首を振ってみせる。 「死…んでた」 「えっ…」 「…おい、シノさん。ウソだろう? オマエのおふくろ、俺のおふくろよりずっと若い筈じゃんか…」 「知…るかよっ! 隣に住んでたババァってのが、俺に向かってくっだらない事をいくらも話してくれたさっ! 子供を引き取る為に金を稼がなくちゃならないからって、無茶をし過ぎて過労でポックリいっちまったんだとさっ!」  途端に、堰を切ったみたいに涙が溢れ出して、止まらなくなった。  両手で髪を掴んで、俺は二人から隠れるみたいに顔を隠し…。  本当は、もうこの場から消え去ってしまいたいくらいに、情けなかった。  こんな風に取り乱すのなんて、メチャクチャ格好悪い。  不意にグイッと、俺の身体をレンが抱きしめてくれた。  俺は、ただもうガキみたいに。  あの時、訪ねて行った先でなにも泣けなかった分、ここで反動が来たみたいに泣いて、レンにしがみついてた。 「まいったな」  溜息混じりに、ショーゴが言った。 「つまらないトコロで、意地を張るから…」  俺の髪を梳きながら、レンが答えた。 「これじゃ、俺が悪者みたいじゃないか」 「そうでもないでしょ。少なくともシノさんは、ショーゴさんに迷惑掛けないようにって思って、一人で行動したんだから、誰もショーゴさんを責めたりしないよ」 「当たり前だ。今まで散々迷惑掛けられて、その上文句まで言われてたまるかい」 「俺やハルカは、その迷惑を掛けられたいって思ってるんだけど。世の中上手く行かないねェ…」  レンが、低い声で笑う。 「今夜、これからどうする?」 「うん。とりあえず、ショーゴさんには安眠をお届けするよ。俺がシノさん、連れて行くから。ショーゴさんは、その方が良いでしょ?」 「まぁな」  そう言って、レンは俺を連れてショーゴの家を出た。  ショーゴの住んでいる小綺麗なアパートの前にはレンの車が停めてあり、俺は黙ってその助手席に身を置いた。
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