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扉の開閉音。
パタパタとこちらに近付いてくる足音と、話し声。
「シノさん、ただいま」
ハルカの声に驚いて顔を上げると、その後ろにはレンも立っていた。
「なんだ、たった30分も我慢が出来ないのか?」
レンは俺の隣に座って、顔を覗き込んでくる。
「なんだいシノさん。俺におかえりのキスしてくれないの?」
俺の前に立ったハルカは、手を伸ばして顔を上に向かせた。
重ねられた唇。
俺は吃驚して、思わずそれから逃れるようにハルカの肩を押し戻した。
「どうしたの?」
「だ…って…」
戸惑う俺の様子に、ハルカは微かに眉をひそめてみせる。
「レン、シノさんに俺を迎えに行くって断ってから、出てきたんだろうねェ?」
「急に帰ってきた方が、感動的だろ?」
しれっと答えたレンを、ハルカは呆れたような目で見やってから、再び俺に目線を当てた。
「シノさん。お帰りのキス、してよ」
「だってハルカ、オマエは俺に飽きたんだろ? だから、ちっとも帰ってこなかったんじゃ…」
「イヤだな、何度も電話で説明したでしょ。伯母さんが出てきてくれたら、スグにも飛んで帰るからって。でもゴメンね、寂しい思いさせちゃって」
「でも、今日も帰れ無いって」
「帰ってきたら、ここにシノさん居なかったから。レンのマンションに行ったんだけど、誰も居なくて。携帯に掛けても誰も出てくれないから、メールを入れておいたの。そうしたらレンから電話掛かってきて、迎えに来てもらったんだ」
ハルカは俺の顎を捕らえると、ゆっくり唇を重ね合わせてくる。
肩に腕を回されて、俺はそれから逃れる事は出来なかった。
「おい、ハルカ。誰がそこで、ラブシーンを展開しろっつったよ。オマエだけのモノじゃないんだぞ、シノさんは」
不意にハルカから引き離されて、レンがグイッと俺の身体を抱き寄せる。
「オマエ、俺のコト呆れてねェのかよ?」
「おやぁ? シノさんはレンにそうされるの、拒んでるみたいだけど?」
「シノさんはハルカがいない間、俺に慰めて貰ってたのがバレるのコワイだけさ」
「なんだ、そんな事? それならシノさん、安心して。俺、シノさんの事を責めたりしないよ。俺が先にシノさんとの約束を破ったんだモノ、俺には怒る権利、無いからね」
「え…っ?」
俺は、二人の顔を交互に見た。
そんな俺の様子を見て、なぜか二人は顔を見合わせ、ひどく意味有りげに笑ってみせる。
「おいで、シノさん。言ったでしょう、大丈夫って。今回は約束を守ってあげられなかったケド、もう二度とこんな寂しい目に遭わせたりなんかしないよ」
ハルカは俺の手を取ると、ソファから立ち上がらせた。
「だ…って、ハルカ。…俺のコト、愛想尽かさねェの?」
「どうして? 俺は、シノさんにくびったけだもの。なにがあったって絶対にこの手を離したりなんかしない。シノさんが俺に愛想を尽かさない限りね」
「こんなトコでウダウダ言ってないで、ほら、行きな」
背中を押され、俺は振り返った。
「だって、オマエ、俺のコト呆れたろう?」
「なんで? ますます可愛いって思ったぜ? なんだってショーゴさんにはこの可愛さが解んねェかな?」
「冗談じゃないよ。ショーゴさんに参入されたら、俺達の付け入る隙なんて無くなっちゃう。レンだけだって、俺には余分な珍入者なのに」
ハルカが、俺の手を握っている腕に力を込めて、クイッと俺を引き寄せる。
「言うじゃないか。シノさんは、俺の方がイイって言ってくれたんだぜ? 仕事さえ入らなきゃ、絶対ハルカがいない間に落とせたんだ」
レンは手を伸ばすと、俺の肩を抱いてグッと強く引き戻した。
「な…なんなんだよ、オマエら?」
「おいで、シノさん。この自意識過剰の芸術家に、俺とシノさんの絆がどれくらい深いものか、しっかり教えてあげなくちゃ」
「なに言ってるんだ。シノさんは俺の方がイイって、あんなによがってたもんな。シノさん、オマエこの色男にあんなイイカオさせて貰ったコトあんのか?」
二人は俺を左右に挟んで、ほとんど強引に寝室へと連れて行った。
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