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結局、この時ハルカが放棄してしまえば終わりになった筈の俺達の関係は、ハルカが俺を許容するという形で継続される事が決定した。
そしてハルカはその日の午後に、軽トラックでもう一度俺のアパートにやってきて、俺の少ない家財道具を全部それに積み込むと、自分のマンションに俺ごと運んでいった。
田舎の、かなり裕福な家で育ったハルカは、既に自分名義のマンションの一室を持っていたのだ。
そしてその日から俺は、その部屋の住人になった。
時折ねだってくるハルカに身体を開く事以外、俺は俺の好きにしていて良いという環境。
あまりに理想的なその状態に、俺が文句を言う訳もなかった。
「シノさんってば、そんな気持ちよさそうな顔しちゃ『セックスが嫌い』なんて言っても、説得力無いよ?」
少し正気に返ってきたあたりでそんな事を囁かれては、さすがに羞恥を感じずにはいられない。
俺がムキになって何かを言い返そうとすると、ハルカはそれを遮るように唇を重ね合わせてきた。
「可愛いね、シノさんは。恥ずかしいと余計に感じやすくなるんでしょ? ココ、また堅くなってきたよ」
ハルカの指が俺自身に絡みつき、柔らかな愛撫を施してくる。
俺は、与えられる快楽に夢中になって、もう反論する事すら忘れてた。
最初の晩。
ハルカが俺に最後まで望まず、その態度に俺はハルカの事を『ガキみたいなヤツ』と思ったけど。
それがとんでもない勘違いだった事を、後日思い知らされた。
確かにハルカは、それまで男とつき合ったりした事がなかったから、同性との行為を良く解っていなかったというか、知らなかっただけで。
実は結構、隅に置けなかったりする。
最初は、俺に触れるってコトだけである程度の満足を得てしまったのと、俺との行為にハルカ自身が舞い上がっていて、俺に気を回すコトまで出来なかっただけだったのである。
だから、何度も行為を重ねてきた今では、ハルカは俺の身体の快感のポイントをもうすっかり知り尽くしていて、そこをじっくりと責めあげてくる。
「こっち向いて…、俺の指、舐めて」
口に含まされたハルカの指先を、俺は丹念にしゃぶる。
「うん、上手。…じゃあ、ご褒美あげようね」
俺の唾液で濡れた指が、体内に潜り込んできた。
「は…っ、…あぁっ!」
背筋を、電気のような快感が駆け昇る。
「綺麗だよ、シノさん。…シノさんみたいに綺麗な人、俺は他に知らない。…もっと感じて、乱れて見せてよ。感じてる時のシノさんが、一番綺麗だから…」
「あっ…」
ハルカの指が、俺の内部をかき回すように動いて、俺を追い上げる。
俺は、だんだん指だけじゃ物足りなくなってきてしまった。
でも実を言うと、誰とでもすぐに行為に及んでしまうような俺ではあるが、焦らされて相手にその先をねだるのはものすごく苦手で、それを口にするのには出来れば避けたいと思っている。
しかしハルカは、そんな俺の焦りを知っていて、いつだって俺がねだらなければ決して許してくれないのだ。
「ハルカ…、早く…」
「そんなコト言ってると、淫乱みたいだね」
ようやくの思いで口にした言葉を、そんな風に返されて。
俺は、追いつめられた苦しさと耐え難い羞恥に襲われ、思わずハルカの顔を見てしまった。
「そんな、泣きそうな顔しないでよ。もっと、焦らして泣かせたくなっちゃうよ?」
愛しげに目を眇め、ハルカは笑ってみせる。
「でも、そこまでしたら嫌われちゃうって知ってるから。…シノさん、大好きだよ」
熱を煽るばかりだった指が引き抜かれ、腰を抱え上げられたと思ったら一気にハルカが挿入ってきた。
「は…っ、あぁっ!」
痛みがないワケじゃない。
でも、そうされる事で快感を得る術を知っている身体は、痛み以上に俺を狂わせる感覚を、背中から頭にかけて電気ショックみたいに流してくる。
嬌声をあげ、俺はもう夢中になってハルカにしがみついた。
ハルカの腕の中。
俺は、トロトロとした眠りに身を任せている。
髪を梳いてくる指先とか。
押し当てた耳に聞こえる鼓動とか。
素肌に触れている温もりとか。
同性との行為の後は、どんなに細心の注意を払ってもらったとしても身体の奥の方に鈍い痛みが残っていて、とても気怠いけれど。
でもその程度の事でこの安堵感が手に入るなら、それは安い物というモンだ。
「シノさん…、シャワー浴びなくて良いの?」
「ん…」
もう、返事をするのも億劫で、俺はハルカの身体に腕を回した。
「仕方がないなぁ…」
クスクスと笑うハルカの声を最後に、俺の意識は心地の良い眠りの中に堕ちていった。
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