結婚競争曲

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 それはちょうど一ヶ月前に遡る。  国が婚活を後押しするための制度を創設した。その柱として、婚活大会という競技が企画された。競技といってもルールは簡単。大会運営委員会が準備する競技場で、制限時間内に参加者の中から結婚相手を見つけ、所定の用紙にサインとハンコを押し、結婚を誓えばいいだけ。それがゴールというわけだ。  さいしょ僕は参加するつもりはなかった。とくべつ結婚したいたわけじゃなかったからだ。  ところがそんな僕の気持ちを一変させる追加情報が発表された。  それは競技中に結婚を決めたカップルには賞金が出されるというものだった。その額なんと一億円。これには全国の独身男女が驚いた。喉から手が出る金額だ。  一億もらって気が合う女性と結婚生活をスタートできるのなら、きっと順風満帆なはず。僕はそう思った。  ただし甘い話には裏がある。しっかり条件があった。  その条件とは、結婚相手は互いに初対面であること。申し込むときに、交際歴、離婚歴(あればその理由)、性格、嗜好、職業など、あらゆる個人情報を申告すること。そして誓約事項として、賞金をもらったカップルは毎月末に夫婦生活について詳細なレポートを提出すること(多額の税金を投入するだけに、これは仕方がないことかもしれないが抵抗はある。僕はこのことをあとから知った……)。  こうした条件をクリアした参加希望者を、さらに大会運営者が厳正な審査でふるいにかけ、その結果、選ばれたのが僕を含め、全国から集まった男女一万人だった。  どうでもいい話だけど、今大会の参加者で最高齢は八十歳の老人だった。  大会開始前、老人がマスコミからインタビューされている姿を見たけど、「どういった女性が好みですか?」という問いに対し、「わしは飲み会が好きじゃ」とまったく見当違いな答えを返していた。  本当に厳正な審査をして選ばれたのだろうかと疑わしいものがある。もっとも、その中のひとりとして僕も審査を通り、フィールドに立っているわけだけど……。
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