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青い空に号砲が鳴りひびく。
うぉーという地鳴りのような声をあげ、男女一万人が一斉に駆け出した。
フィールドに土煙が舞い、汗と香水が混ざったような匂いが鼻にツンとくる。僕の体からは汗がだらだら流れ落ちる。だけど構ってなんかいられない。
視界は、男、女、男、で溢れている。
必死な顔をした老若男女がフィールドを埋めつくす。
ひとりの女性に対して複数の男どもがアタックしていたり、ひとりのイケメンに多くの女が群がったり、その壮絶な戦いを目の当たりにして、僕は制御不能な興奮をおぼえながらも、なるべく冷静に競合を避け、好みの女性を探し、ひたすら駆け回った。
僕は女性の見た目には、あまりうるさくない。色白で、少し痩せ型で、目がクリクリして二重瞼で、髪の毛は肩ぐらいまでのストレートが理想だけど、そこはあまり気にしない。あと鼻が高く、肌に艶と張りがあったら、ほかにはなにもいらなかった。
つまり僕が認めた第一印象さえよければ、僕はすぐにアタックするつもりでいた。
その女性がいま目の前に立っている。
「僕と結婚してください」
僕は即プロポーズした。
「ないないない。ぜったい無理だから」
女性はクリクリの目を裏返すように目を剥いた。
僕はすぐさま回れ右をすると、別の女性をまた探す。そこで目がとまった。
少し肉づきがよく丸顔だけど、整った眉にカールした睫毛が黒々としている。僕より少し年上っぽい。どことなく大人の魅力というものを醸しだしている。僕のハートはあっさり鷲づかみされた。
「僕と結婚してください」
「趣味がちょっと……」
僕はゼッケンの趣味のところに、『食べることと寝ること』と書いていた。
どうも彼女はその趣味が気になるみたいだ。なので、僕はすぐに次を探す。なんせ時間がない。粘るだけ時間の無駄だ。
今度は背中まであるロングヘアの女性に目がとまる。鼻が高く、目は切れ長、唇は薄く、ちょっときつそうな感じはしたけど、そういうタイプも嫌いではない。とにかくアタックしてみる。
「僕と結婚してください」
息を切らしながらプロポーズする。
「はい?」
やった! 奇跡の即OK?
「ありがとう。じゃあハンコを押しに……」
僕はすぐに彼女の手を掴んだ。瞬間、グーパンチが横っ面に飛んでくる。
「なにすんだ。この野郎! 俺は男に興味はねえんだよ」
ドスのきいた声に驚いた。女性かと思ったら男性だった。世の中にはいろんな人がいる。見た目だけじゃわからない。僕はちゃんとゼッケンに目を通すことにした。
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