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そうこうするうちに最初のカップル誕生を報せるファンファーレが鳴り響く。
電光掲示板にカップル誕生『1』の数字が点灯した。それはつまり一億円をゲットしたカップルが誕生したことを意味する。
うらやましい、心底思う。いや待て、僕にだってチャンスはまだある。
時刻は十二時を回ったところだ。残り五時間。焦るな僕。がんばれ僕。やればできる子なんだから。
僕は僕を精一杯励ます。
それから何人、いや何十人、いやいや百人は超えたかもしれない。
僕は手当たり次第、話しかけてはプロポーズをしまくり、そのたび当たっては砕けた。
そうしてどんどん時間は削られていった。
「あ、ごめんなさい」
きょろきょろしながら歩いていたら、ぽっちゃりした女性にぶつかった。
思わず僕は条件反射で彼女の大きな胸についたゼッケンに目を走らせた。
年齢二十六歳。僕と同い年だ。
仕事は某銀行の受付。きっと給料はいいんだろうな。
年収は僕の倍。やっぱり。
趣味は……。え、食べることと寝ることだって! 僕と一緒じゃないか!
「あ、ちょっと」
僕の直感が、この女性こそが僕の結婚相手だと訴える。すでに残り時間はあとわずかだし、ラストチャンスになるかもしれない。
僕の呼びかけに答えるように彼女は立ちどまった。僕は渾身の力を咽喉仏に入れる。
「ああ、あなたは、なんて美しいんだ! 僕はいま、一瞬であなたに恋をした。あなたは僕の太陽だ。結婚してください!」
プロポーズの言葉はもはや挨拶だ。すらすら出てくる。いつしか僕はどんなキザな言葉もペロッと言えるようになっていた。
「年収が……」
彼女は僕のゼッケンを見て言う。たしかに自慢できるもんじゃない……。
「……でも」
でも? あきらめかけた僕に、彼女はつづける。
「でも、私たち趣味が合うよね! やっと見つけた! こちらこそよろしく!」
おお、神よ。最後の最後にこんな素敵なサプライズを用意してくれてたなんて。
ちなみに彼女も僕とほぼ同じ体型だ。髪が長いという点を除けば、まるで鏡を見るように僕たちは似ていた。
やっぱり夫婦は似た者同士がいい!
僕はようやく結婚の意味を知った。同時に、こういう出会いの場を設けてくれた国の制度に感謝した。
ありがとう!! この国に生まれてよかったよ~!!
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