乱入結婚

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 その女は淑女というにはあまりにもガサツで、横暴なやつだった。  口を閉じ、大人しく座っていれば誰もが振り向く絵本の中のお姫様だというのに。  いや、でも、そうだったらたぶん俺達は一緒にいることはなかっただろう。そんな絵本のお姫様、俺にはもったいない。  そう、もったいないんだ。  俺は隣に立つヴェール纏った本物のお姫様を見る。あいつとは正反対の淑女の鏡のような女性。俺ではない好きな人がいるはずなのに嫌な顔一つも見せない、すごい人。 「誓いのキスを」  俺と彼女の間に立つ神父が厳粛を着飾って次の儀式を言葉にする。俺は言葉に従うようにお姫様のヴェールに手をかけた。  その時、だ。  バァァンッ!と、馬の鳴き声と共に教会の扉が木の屑と化して飛び散った。  静かにしていた参列者たちは慌てふためき、でかい腹を突き出しでふんぞり返っていた父上は馬に蹴飛ばされてひっくり返る。  なんて惨状。なんて喜劇。相変わらず引っ掻き回すのが得意なようで、俺はこの式に不相応な意地悪い顔をしながら大声で笑う。 「ンだよ、思ったよりも元気じゃねーか」  真っ白な馬が目の前にやってきて、聞きなれた声が降ってきた。  炎を閉じ込めたかのような情熱的な長い紅髪、長い睫毛で縁どられたルビーの瞳。そいつも俺と同じような意地の悪い笑みをしながら、手を差し伸べてきた。 「よォ、王子サマ。白馬のお姫サマが迎えに来てやったぞ」  ああ、あんたの隣が俺にとってはちょうどいい。俺は迷わず彼女の手を取る。  貴族達はそんな彼女を呆れた顔でこう呼ぶ――暴れ姫のスカーレット。  だけど、俺は誰よりもその女の隣にいたいと思ってしまった。
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