エスケープ

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エスケープ

 まるで流れ星のような光が空をつっきていく。  ニィナはほうきをぐっと握りしめた。 「あちっ」  尻あたりがどんどん熱くなっていく。  ほうきの尾っぽからは火花が散っていた。それでも止まらずに、さらにほうきの速度を上げる。  ブーンブンブンと空中に音がひびきわたる。すぐに数台のバイクがあらわれた。  ジェットエンジンを搭載し、両端と後方に小型のつばさをつけている。  ニィナをバイクのライトで照らし、もくもくと大量のけむりをだしながら一気にこちらへ向かってくる。 「ついてこないで!」  ニィナはそう叫ぶと、前方に見えてきた雲の中に突入した。  一瞬、とても静かになったように思えた。しかし、すぐにまたエンジンをふかす音が聞こえ、ライトが雲を照らしだす。  ニィナは雲の中を急いで駆けぬける。  が、さっきと同じように追手はしつこい。  しかも、ほうきの尾っぽは線香花火のようにばちばちと燃えていた。 「きゃあっ!」  いきなり目の前に待ち伏せしていたバイクが現れた。  衝突する、間一髪のところでニィナは柄を上へと向けた。  すると、ほうきは天高く舞いあがった。  真下でがっしゃんと火があがった。  ニィナは目をつぶって、必死にほうきにしがみついた。  ひゅうひゅうと、風がニィナをなぶっていく。髪がぼさぼさに爆発し、服が何度もめくれかける。  ついに、ぼっとほうきの房から火がもえだした。 「ええっ!」  ニィナは驚いてほうきを急停止させた。  止めようとほうきの房をはたこうとするが、熱くてふれることができない。ローブの中にしまいこんでいた分厚い本を急いでだすと、それで火を叩き始めた。  どうがんばっても火は消えない。それどころか、本の紙が燃えだしてさらに火の勢いが強まった。 「どうしよう」  途方にくれていたところ、またバイクの音が近づいてきた。あたりを見回すと真っ黒の雨雲が近づいてくる。  よし、とニィナは火に包まれたほうきの柄を巨大な雨雲へと向けた。 「いけ!」  そう叫ぶと、ほうきは風のごとく走りだした。  そのまま雨雲へ、どぼんっとつっこんだ。  すぐに大量の雨がふりかかった。じゅわーっと火が消えていって、手に抱きしめた本もしめっていく。体全体がびちょびちょになっていった。  ごろごろ、と雷がとどろき始める。  風がものすごい勢いで吹き荒れる。  それでもニィナはいかれたように雨雲の奥へ奥へと進んでいった。  そして、ひときわ大きな雷が鳴ったかと思うと、ニィナに直撃した。 「いい? 絶対に雨雲に入ってはいけないよ、雨や風でほうきのバランスをくずすからね。それに雷に打たれるかもしれない」  母がそう話していた記憶を頭に浮かべながら、ニィナは意識を失った。  そうして、荒れ狂う風や雨がその体を渦の中に巻きこみ、流されていった。  次に目が覚めた時、まぶたを開けるとねこがいた。 「おっ、起きたか。体は大丈夫か? どこが痛む?」 「えっ、いたっ、いたい」  ねこが目の前でしゃべっていることに驚き、あわてて体を起こそうとしたが、激しい痛みにおそわれた。手も足も、お腹も、全身がびりびりし、かちこちになったかのように動かせない。 「私、死んだんだ」 (ねこがしゃべるなんて、とんでもない天国だな。そりゃ、うちはねこだらけだから、ねこは慣れてるけど、でも、しゃべるなんてね。やめてよ、神様) 「おい、お前は死んでないぞ。気をしっかりもて!」  黄色のねこが、ぷにぷにの肉球をニィナの顔にそえる。 「へへへ」  あまりのおかしさに不気味な笑い声をだしながら、ニィナはまた眠りにおちていった。
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