しゃべるねこ

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しゃべるねこ

 丸い窓からあたたかい日差しがさしている。 「いてて」  痛みでちくちくする体を何とかおこし、あたりを見回す。  そこは小さな部屋だった。  ニィナが眠っているベッドが真ん中に置かれていて、机といす、それから植木鉢が何個か隅にある。 「どこ?」  ニィナはぎゅっと布団のはじをにぎりしめた。  すると、外で声がして、部屋のドアが開いた。 「やあ、起きた?」  ニィナと同い年くらいの男の子がそこにいた。 「あなたは?」  ニィナは眉をひそめて聞いた。 「それはこっちのセリフだけどね。ぼくはクット」  クットは腰に手を当てながら聞いた。 「ねえ、君、スパイじゃないよね?」 「え? なんで? スパイ? わたしはニィナ……遠く離れた島から来たの」  ニィナは声を低くして答えた。 「んー、そうだよね。ニィナは、っぽくないよね」  クットはそう言うと、ドアをバタンと閉めた。 「ええ?」  ニィナはあっけに取られながらも、そこでじっと待っていた。  体が痛くてすぐに動けそうにはないし、ここがどこなのかもわからない。 「私、かみなりに打たれたんだ。でも、生きてる。それで……ねこ?」  急に黄色の猫が頭に思いうかんできた。 「いやいや、まさか」  ニィナは首をふった。  人間の言葉をしゃべるねこなんて聞いたことはない。きっと夢にちがいない。  そう考えていると、ドアがノックされてクットがあらわれた。 「おまたせ」  その手には湯気がでている皿がある。 「シチューだよ。ニィナは三日も眠っていたんだよ。栄養をつけて、体の傷も回復しなちゃ」  さっきまでの疑っている顔はさっぱりなく、優しくほほえんだ。 「三日間も……」  ニィナはつぶやいた。 「そうだよ。いつも船の後ろに網を引っかけておくんだ。そしたら、たまに鳥が引っかかるし、嵐の日は魚とか、フライパン、服、家具なんかもゲットできて、生活するのに助かっているんだ。でもまさか、人間がとれるなんて思ってもいなかったよ」  クットはくくっと笑みをこぼす。 「船? ここって島じゃないの? 飛行船なの」  ニィナは体をずらし、窓から外をのぞきこむ。  下は完全にまっさおで土地がない。あたりでは雲がいくつも通りすぎ、たまに風で船が振動している。 「小さな船だけどね」  クットはベッドのはじに腰かけた。 「さあ、食べなよ」 「いらない。……ごめんなさい」  ニィナは布団にくるまり、顔をうつむかせた。 「お腹、すいてないの」  月の光が窓からさしている。  ニィナはぼんやりと手を光にかざし、ため息をついた。  クットがくれたシチューは机の上に置いてある。あとで食べて、なんて言われたけれど、シチューはかちかちになって手つかずなままだった。  けれど、体の痛みや空腹よりも、頭の中がひどく頭痛がして、手がぶるぶるふるえて、食べる気になれそうになかった。 「おい」  がちゃっとドアが開いた。 「クット?」  ニィナが体をおこすと、そこには光を背に立ったねこのシルエットがあった。 「ねこ?! やばい、また変な夢を見てる!」  ニィナはばっと布団にもぐる。 「どうした! おちつけ、お前はだいじょうぶだ。だいじょうぶだ。お前は死んでないぞ。生きてる」  ねこが布団に飛びのって、ニィナの体をゆする。 「いやー!」  ニィナは思い切り叫んだ。 「どうしたの」  そこへクットがあらわれた。 「ああ、仲いいね。君たち」  その状況を見てあきれた目をした。 「クット。ねこが、ねこがしゃべってる!」  ニィナは布団のすきまから目をだして必死に言う。 「ねこがしゃべって悪いか」  ねこは言う。 「そのねこはしゃべるねこなんだよ」  クットはニィナに説明する。 「しゃべるねこ? そんなのいるわけないじゃん」 「俺はねこではないけどな」  ニィナとねこが同時につっこむ。  クットは苦笑いすると、ねこの方を見る。 「ラカさま、細かいことを言っては混乱してしまいますし、ねこです、ねこ。いやしのねこです」 「むー」  と、ラカとよばれたねこはうなりだす。そしてちらっとニィナを見ると、枕元にちょこんと座った。 「無害だ」  ニィナはおそるおそる布団から出た。  そしてそっとラカの背中に手をおいた。 「ふさふさだ」  ニィナはふふっと笑って、ラカをなでた。  ごろごろ、ごろごろと、あの雷よりとてもとても小さな音が、ラカの喉からひびきだす。 「おい、やめろ」  ラカがぺしっとニィナの手をはらいのけた。 「あっ。ごめん」 「おやおや、ごろごろ言ってねこみたいに幸せそうでしたね」  クットが口をおさえて笑いだす。 「だまれ」  ラカはそんなクットをにらむと、ニィナを見た。 「満足か? もう怖くないだろ。……ただのしゃべるねこだ。わかったか?」 「うん」  ニィナはほほえんで、うなずいた。        
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