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 幼い頃から雨が好きだった。  お母さんは洗濯物が乾かないとこぼしていたし、友達も外で遊べないから雨の日は嫌だと言っていた。  けれど私は雨が好きだ。  夏の日の雨は火照った体を落ち着かせるようにひんやりと心地よい。冬の日の雨は冷たく体に染み込むよう。どんなに寒くても、それは自然を体の中に受け入れるように思えて、なんだかとても綺麗なことのように思えて、私の心を嬉しくさせた。  家の中から雨粒を見ていると、まるで雨音に名前を呼ばれているような感覚になり、外に飛び出したくなってくる。子供の頃は雨が降ると、たとえそれが土砂降りの雨でも、よく傘も持たずに外に出て行ったらしい。私は覚えていないけれど、お母さんが今もよく話す。あんたは雨の中で何だか嬉しそうに立っていて、私やお父さんを心配させたのよ、と。  さすがに成長してからは衝動のままにそうすることはなくなっていったけれど、それでも小雨程度なら、傘をささずにしっとりと濡れることも平気でする。  だけどどんなに雨に濡れても、私がそれで風邪を引くことはなかった。友達の風邪が移ったり、お風呂上がりに髪をちゃんと拭かなかったりで風邪を引くことは人並みにあったのに、なぜか雨が原因で体調を崩すことは一度もなかった。  雨はいつも、私をやさしく心地よく包んでくれていた。
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