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「……こんにちは」
緊張しながら玲美がそっと扉を開き、後ろから海弥も覗き込んだ。小さな声だったが途端に中にいる数人の目が一斉にふたりに向けられ、一瞬その圧に驚きながら背筋が伸びる。
「もしかして、入部希望?」
扉の一番近くにいた髪の長い女の人がぱっと笑顔を向けてきた。その嬉しそうな顔と声にほっとして、玲美が笑って答える。
「はい! よろしくお願いします!」
玲美の返事に、声をかけてきた女の人が、その隣にいた茶髪の女の人と小さく拍手している。軽くそうしてから、玲美と海弥に改めて向き直って言った。
「嬉しい。来てくれてありがとう。えっとそれじゃ、まずは簡単に自己紹介しましょうか。わたしは川崎 京香。三年生で一応、このサークルの部長です。気軽に名前で呼んでね」
「わたしは副部長の有里 真由。わたしも三年よ。よろしくね」
そう言ったのは、京香の隣にいた茶髪の女の人。髪の色と同じで、明るい雰囲気の人だった。
ほかに部屋にいたのは、男性がふたり。手前に座っていた短髪の男性が口を開く。
「次はおれな。今橋 涼夜、三年生。小学校の先生志望でこのサークルに入りました。野球部も兼ねてやってるからたまにしか来ないけど、よろしく」
海弥は頭の中で名前を復唱しながら聞いていた。
『京香先輩、真由先輩、今橋先輩。それから……』
最後に残ったのは、背の高い黒髪の男性。部屋の奥で金槌を持ち、人形劇の舞台だろうか、小さな家のようなものを作っている様子。ほっそりとしているのに力強く血管の浮いている腕が印象的だった。
「俺は高遠 睦希。隣の大学の工学部の三年。涼夜に誘われて時々舞台づくりを手伝ってる。よろしく」
金槌を持っていたからか、最初は少し怖そうに思えたが、自己紹介をしてふわりと笑った顔は温かみのある優しいものだった。
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