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それから海弥と玲美もそれぞれ簡単に自己紹介をすると、京香が再びサークルのことを教えてくれた。
サークルのメンバーは他にもおり、海弥と玲美を合わせると十三人になるそうだ。しかし四年生が多く、今は就職活動や教員試験の準備に忙しいため、実質的に活動しているのはここにいる四人ぐらいなのだという。
今年から少ない人数での活動となり、新入生の入部に期待を込めていたそうだ。そのため海弥と玲美がやって来たこともいたく喜ばれ、早速この日の晩に簡単な歓迎会を兼ねて食事に行こうということになった。
晩まではまだ時間があり、海弥と玲美は部室で色々と話を聞いて過ごすことにした。
高遠以外の三人はこの大学の先輩であり、入学したばかりの海弥と玲美は聞きたいことがいくらでもある。
取っておいた方がいい授業、単位を取りやすい授業、さらには試験の不安や教育実習のことも。矢継ぎ早に尋ねるふたりに、彼らはひとつずつ丁寧に教えてくれた。
話を聞きながら海弥はふと、その間にもコンコン、コンコンと心地よいリズムで高遠が金槌を使う音が聞こえてくるのに気付いてそちらを見る。
余程集中しているのか、海弥が見ていることにも気付いていない。その真剣な横顔に、みるみるうちに組み立てられていく小さな家に、海弥は目が離せなかった。いつからか、玲美や京香たちの話し声も耳に入らなくなっている。金槌の音だけしか聞こえなかった。
「海弥ちゃん?」
見とれる海弥に京香が声をかけ、その声ではっと我に返った海弥に高遠も気付いてちらりと見てきた。
「あ……。ご、ごめんなさい。つい」
京香ばかりか高遠本人にも見とれていたことがバレたかと、止めようと焦る分だけ余計に顔が真っ赤になっていく。何か答えなければと戸惑い、口を開け閉めする海弥の隣から、のんびりと話しかけてくる声がした。
「分かるわぁ。わたしも最初はずっと見てたもの。何かができていく過程って面白いわよね」
なんと言って誤魔化せばいいのか分からずに俯いてしまった海弥を見て京香が明るく言い、それが海弥の気まずさを逸らすためのものだと、その優しさと気遣いに安心した。ほっとした勢いで思い切って高遠に声をかける。
「あの、何を作っているんですか?」
「ん? 次の人形劇の舞台。幼稚園にシンデレラの劇をしに行くんだって。汐崎は今回は見学になるだろうけど」
高遠は集中していた横顔から、正面を向いて海弥に答えてくれた。かすかに笑いかけてくれたその顔に、再び顔が赤くなってしまったような気がする。名前を呼ばれたときはトクンと心臓が鳴るのがはっきりと聞こえた。
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