汐崎 海弥

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 そうしてしばらく部室で話をしながら時間をやり過ごし、薄暗くなってきたころに居酒屋へ移動した。  ざわざわと賑やかな店内、聞いたこともないような名前のお酒がたくさん書かれたメニュー、焼き鳥か何かのいい香り。初めての居酒屋に海弥は緊張しながらも、オトナの仲間入りをしたみたいでドキドキと高揚していた。 「それじゃあ、かわいい新入生の入部を祝って。カンパーイ!」  京香の声で、それぞれのグラスをカチンと軽く合わせる。そんな簡単な仕草だけでも、仲間と認めてもらったように感じて嬉しかった。  まだ未成年の海弥と玲美はソフトドリンクを飲んでいたが、美味しそうに酒を呑む四人の様子はとても大人っぽく見えた。  大きいグラスを持つ腕。勢いよくビールを流し込むたびに上下に動く喉仏。美味しそうに呑み、楽しそうに話している笑顔。  いつの間にか海弥はここでも高遠に視線を引かれていた。  しばらくそうして飲んだり食べたりし、四人の上級生ともすっかり打ち解けて色んな話をしていくうちに海弥はほこほこと顔が熱くなってきた。お酒は呑んでいないのに楽しい空気のせいか、まるで酔ってしまったようだった。ふわふわと浮き上がるように感じながら、このサークルに来て良かったと、高遠の笑う顔を見ながら思っていた。    一度、玲美とトイレに立ったときだった。玲美がこっそりと話しかけてくる。 「ねえ、海弥。今橋先輩って京香先輩と付き合ってると思う? 名前で呼び合ってるし、仲良さそうだよねぇ」 「え……? そうなの?」 「そうなのって、気付いてなかった? 今橋先輩、かっこいいんだけどどうなのかなぁ」  どうかと聞かれても、そもそも気付いていなかった海弥は何と答えるか迷ってしまう。さらには気付かないほどに高遠しか見えていなかったことに自分でも戸惑った。 ──付き合ってる、かぁ。どうなんだろう。……高遠先輩……は、付き合ってる人、いるのかなぁ──  ふと浮かんできた思いに、胸の内がかすかにざわめく気がした。その正体に気付かない振りをするように、海弥は『どうだろうね』と玲美に答えて意識を逸らす。  自分の中で急激に起こっているたくさんの感情の揺れに、今はまだ戸惑うだけで精一杯で向き合うことができずにいた。
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